「大学中退者は忍耐ない」と判断するのは早計だ 就職支援を経て「戦力になる人材」に変貌する

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工具販売会社の採用担当者は「これまでセカンドカレッジから約10名採用した。1名も辞めていない」という。こちらもアービックと同様に、卒業生が危機感を持って必死に働く姿勢を評価している。給与などの処遇は大卒と差をつけていない。入社1年で店長になる卒業生もいる。

若者の採用支援といえば、新卒や既卒が主な対象だが、ジェイックは中退者が第3のマーケットになると見ている。20万人弱が就職する高卒マーケットも大きいが、高卒採用は規制が厳しく民間の人材サービス企業が関与するのは難しい。高卒よりも年間8万人もいる中退者マーケットのほうが有望だ。

ジェイックでは中退者関連ビジネスとして3つのサービスが考えられると見ている。1つ目が大学職員向けの研修サービス。ジェイックのこれまでの豊富な経験をもとに、大学職員に学生の中退を防止するためのカウンセリング法を伝授する。

2つ目は中退してしまった学生の就職支援だ。在学中からどんなにフォローしても、中退者がゼロにはならない。そこで、提携した大学から中退者を受け入れるルートを作って、いざ中退者が出た場合はスムーズに就職支援を行えるようにする。

3つ目が1年生向けの中退防止セミナーの開催。独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査によれば中退率が最も高いのは2年生だという。そこで、1年生のときにこうしたセミナーを開催するのは退学防止に有効だ。少子化が進み、大学にとって新入生の獲得はだんだんと困難になっている。中退でさらに学生数が減少すると経営が苦しくなってしまう。中退防止は教育上だけでなく、学校経営上からも重要であり、ここにビジネスチャンスがあると見ている。

現在、セカンドカレッジの開催は東京だけだが、ジェイックの近藤浩充常務は「セカンドカレッジの開催回数を増やすとともに、今後は地方でも開催したい」という。

生産年齢人口減少の中、中退者の機会拡大は不可欠

国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」によると、日本の生産年齢人口(15歳以上65歳未満)は1995年の8726万人をピークに減り続け、2015年時点では7728万人となっている。2029年に6950万人、2040年に5977万人となり、その後も減少は止まらない。働き手の減少は深刻な問題だ。

一方、文科省の調査によると1年間に大学を中退する学生は約8万人。『大学の実力2019』(中央公論社)の調査では、2014年春に入学した学生はその後の4年間に7%が退学しているという結果が出た。こうした中退者は安定した仕事に就いていないことが多い。

大学中退という一度の失敗で、若者が充実感のない不安定な人生を送らなければならないのは大きな問題だ。また、生産年齢人口が減少する状況で、中退者を十分に活用できないのは社会全体にとって大きな損失だろう。セカンドカレッジのように若者に夢を与えると同時に、企業の人材不足を補うサービスは不可欠だ。

田宮 寛之 経済ジャーナリスト、東洋経済新報社記者・編集委員

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たみや ひろゆき / Hiroyuki Tamiya

明治大学講師(学部間共通総合講座)、拓殖大学客員教授(商学部・政経学部)。東京都出身。明治大学経営学部卒業後、日経ラジオ社、米国ウィスコンシン州ワパン高校教員を経て1993年東洋経済新報社に入社。企業情報部や金融証券部、名古屋支社で記者として活動した後、『週刊東洋経済』編集部デスクに。2007年、株式雑誌『オール投資』編集長就任。2009年就職・採用・人事情報を配信する「東洋経済HRオンライン」を立ち上げ編集長となる。取材してきた業界は自動車、生保、損保、証券、食品、住宅、百貨店、スーパー、コンビニエンスストア、外食、化学など。2014年「就職四季報プラスワン」編集長を兼務。2016年から現職

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