それでは、実質賃金を上げ続ける環境を整えるためには、どういった経済政策を実行すればいいのでしょうか。
私のお決まりの答えは、「農業・観光・医療を成長産業として地道に育成し、海外からの需要を取り込むしかない」というものです。これは、まだアベノミクスという言葉が生まれる前から、私がずっと訴え続けてきたことです。
実のところ、自民党が民主党から政権を奪還する前の2012年12月13日の記事『過度な金融緩和は、国民を苦しめる』では、金融緩和によって円高を抑えると同時に株価も上げることはできるが、インフレによって国民の賃金はむしろ下がっていくだろうと申し上げました(当時、リフレ派と呼ばれる識者たちからは、このような考えは大いに批判されました)。
それを踏まえたうえで、同12月28日の記事『安倍政権は農業・観光・医療を強化せよ』では、何よりも成長戦略こそが最も大事なことであり、農業・観光・医療の3つの分野を10年かけて成長産業に育てることが望ましいと申し上げました。というのも、これら3つの産業は海外の需要を取り込むという視点では非常に相性がよく、海外との競争にも耐えうる日本ブランドとして強い付加価値を保つことができるポテンシャルを持っていたからです。
ですから、この後に続けて、2013年1月24日の記事『「日本のゾンビ産業」、農業は世界一になれる』では農業について、2月4日の『日本の観光は驚異的に成長できる』では観光について、2月21日の『日本の健康・長寿は世界一のブランド力』では医療について、それぞれの産業が成長産業になるための考え方や促進策を申し上げました。
農業・観光・医療の組み合わせで日本は強くなる
実際に、これら3つの産業は密接にリンクしています。例えば海外の富裕層や中間層に、日本への観光をかねて、先端的な医療あるいは人間ドックを受けに来てもらう。そして、湯治などを含めた観光では、ご当地の美味しい日本食を楽しんでもらう。それができれば彼らは帰国した後も、安全で品質の高い日本の農産物を食べる機会が増える。ひとたび日本のファンになってもらえれば、その後もたびたび日本を訪れてもらうことができるかもしれない、といった具合です。
こういった日本の強みを生かせる産業の組み合わせこそが、農業・観光・医療の高付加価値をさらに高め、日本ブランドを確立することにつながります。そうなれば、中国や韓国、台湾などアジアのライバルたちとの価格競争にも巻き込まれることなく、所得水準が比較的高い新たな雇用をつくりだすことができるというわけです。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら