実質賃金下落の本質は国民への「インフレ税」だ

「普通の人の景気認識」が圧倒的に正しい理由

近年、大企業の経営者が集まる催しに参加するたびに思うのは、大企業の景況感と国民の生活実感のあいだには大きな乖離があるということです。多くの経営者が口をそろえて「とても景気がいい」という見解を述べているのですが、2018年の半ばまではそういった見解がことのほか強調されていたように思われます。

確かに、大企業の世界では多くの企業が収益を拡大することができていたので、彼らだけの世界で生きていると、おそらく私も「日本は好景気だ」と錯覚してしまったかもしれません。

ところが私は普段から、経済を分析するうえで経済成長率や企業収益はその一面にすぎず、「本当の意味での好況・不況の判断は国民生活の実感で決めるほうが適当である」と考えています。その意味では、国民のおよそ8割が「景気回復を実感していない」という事実は、政府が判断する景況感に重い課題を突き付けているように思われます。

国民の立場からすれば、政府の中枢にいる政治家ほど普通の人々の暮らし向きに敏感であってほしいです。自分の周囲の裕福な人々だけを見て、景気がいいなどと決して思わないでほしいのです。とにかく政府には「景気認識は国民の実感のほうが正しい」と謙虚に受け止めていただいたうえで、国民が実感できる景気回復とは何なのか、国会とともに知恵を出し合って真剣に議論していただきたいところです。

正確な統計が担保できなければ、国の未来はつくれない

これまで私はいくつもの連載や拙書のなかで、「実質賃金と名目賃金の相関関係を示したグラフ(最初のグラフ)を優に10回を超えて掲載してきました。ところが非常に困ったことに、厚労省の統計不正によって2017年と2018年の賃金が統計上の連続性を保てなくなってしまったので、2018年以降は厚労省が公式とするデータは使うことができないと考えています。

総務省の統計委員会の見解は、2017年、2018年と続けて調査対象となった事業所同士を比べた参考値を重視するべきだという至極まっとうなものです。統計には連続性が必要不可欠であり、途中で基準が変わることは絶対にあってはならないからです。統計委員会の見解に従って試算をすれば、2018年の実質賃金は厚労省が公表した0.2ポイント増ではなく、0.2ポイント前後のマイナスになるはずです。

経済を分析するときに統計が不適当であれば、分析する結果が正しくないばかりか、政策の立案も歪んだものになってしまいます。日本はこれから社会保障改革という難題に立ち向かわなければならないなかで、国会では統計の信用が担保できる体制づくりができるように、与野党が協力して建設的な議論を重ねてほしいものです。

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