もちろん、「強い通貨価値」を維持するのは、いくつかの観点から望ましい面がある。ただ、通貨価値である為替レートは、経済環境や国民の生活にも大きな影響を及ぼす。
デフレでは働く機会が減り、失業者や低所得者増に
1990年代半ば以降、日本が陥ったデフレと低成長という未曽有の経済問題と、為替レートは密接にかかわっている。1990年代から日本においては、円が「強く評価され過ぎていた」ことで、経済状況は悪化し、弊害が深刻になったのである。
デフレとは、前回も触れたように、モノやサービス、そしてヒトの価格である給料を含めて、一般物価全般が下がり続ける事象である。「ヒトの働く価値」を反映する賃金も下がっている状況だ。
賃金はいろいろな要因で決まるが、「労働市場」における需給バランスで動く面が大きい。人手不足が続けば賃金が上がるし、逆に人が余っていれば賃金が下がる、というシンプルな理屈だ。高齢化の進展などで、日本の現役世代の人口は減り始めているが、それ以上に、働く場所(企業の労働需要)が減ってきた。デフレの最大の害悪は、働く機会が減り、失業者や低所得者が増え、国民生活が豊かにならないことである。
日本で、過去約20年にわたって働く場所が不足していた理由には、複数の要因があるが、先に挙げた「通貨(円)が強く評価され過ぎた」悪影響がかなり大きかった。代表例は、輸出によって売上を稼いでいる日本の製造業である。不相応に高い通貨になると、海外企業との価格競争力で大きなハンデを負う。海外へ進出している企業にとって、ドルなど外貨建ての売上げや利益も,円高になり過ぎると目減りする。海外で儲ける日本企業は円高で大きなダメージを負い、それらの企業に雇われる雇用は、余剰になってしまう。
海外で稼ぐ企業だけではない。実は、多くの国内企業も円高でダメージをうける。円高が行き過ぎる状況が続くと、輸入価格が低下し、食品・衣料・家電などモノの分野で輸入品が優位になる。だから、同様の製品を作る国内企業は苦しくなる。
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