通貨高でダメージを受けるのは、モノを作る製造業だけではない。東京オリンピック開催で注目されている観光産業は、先進国にとって有望な成長産業である。ただ、通貨高が行き過ぎると、日本人にとって海外旅行は魅力的になるが、国内観光業が相対的に割高になってしまう。
この12月に訪日外国人が初めて年間1000万人を突破したが、強すぎる円は、本来極めて魅力的な観光地であるはずの日本を訪れる外国人の障害になっていた。当然のことながら、本来は雇用創出効果が期待できる観光などの国内産業が生み出す雇用機会さえ、この間抑制されてたのだ。
こうしてみてくると、「強い通貨は望ましい」という議論は、一般論では正しいが、それは経済状況が正常であれば当てはまる話であるということがわかる。
デフレと総需要不足が続いた日本では、通貨高が労働市場と経済環境を悪化させ、デフレを強めるという悪循環のメカニズムが強く働いた。1990年代後半以降ほとんどの期間で、通貨が強く評価され過ぎたことで、民間企業で働く多数の若年層を中心とした日本人が、賃金減少や就職難で苦境を強いられた。
望ましいはずの通貨高で、日本人全体でみれば、実は貧しくなっていたのである。確かに円高なら割安な海外旅行を楽しめる反面、多くの日本人がその弊害に苦しんでいた。
冒頭で述べたように、アベノミクスの発動で、この1年で円安が大きく進んだ。それは通貨堕落などではなく、強すぎた円が「適正水準」に戻っただけなのである。今後、円が適正水準で推移することで、多くの日本企業は価格競争力を取戻すだろう。そして、2014年以降、脱デフレとともに日本経済は長期停滞から抜け出し、財政赤字など多くの経済問題も改善に向かっていくはずだ。
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