出生前診断で「判明」、それでも私が産んだ理由 ダウン症児を授かった親たちの告白

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「私は樹生を授かるまで、3回流産を経験しています。それに12週といえば、エコーで胎児の姿が人の形としてしっかりと見え始める時期。ようやく授かった子どもに対して愛着が湧き始めているのに、簡単に中絶の選択をすることはできませんでした。私たちにとってダウン症だからといって諦めることはとても難しい選択だったのです」

答えを導き出せないまま、時間だけは過ぎていった。めぐみさんがようやく決断を下したのは中絶が可能な22週目の直前だった。

「単に中絶する勇気がなかっただけかも」

「夫と相談した結果、ダウン症は合併症が多いので、健康であれば産もうということになり、夫先生のところで胎児ドックを受けました」

胎児ドックにより大きな合併症は見られず、めぐみさんは産むことを決意する。樹生くんは生まれてからも大きな病気をせず、すくすく成長中だ。

「産む決心はしましたが。単に中絶する勇気がなかっただけなのかなって思うこともあります。長年不妊治療をしていたのもあり、これが最後って思って臨んだことが大きかったと思います。私が今より若く、受精卵が残っていたら、もしかしたら違った決断をしていたかもしれません。

こんなことをいうと倫理観が疑われるかもしれませんが、22週を過ぎて生まれるまで、『正直、お腹の中で亡くなれば』って思ったこともありました。産んで正解だったかと悩む一方で、実際に生まれると可愛いし、産んでよかったっていうのも本音です」

夫医師は最後にこう私に伝えた。

「私たちはお母さんの選択を尊重します。産む決断をされたお母さんには、生まれた後にどのような選択をしていくか、極論をいえば、医療的ケアを要する子どもや手術が頻回に必要な子どもに対して、生まれた後どのような対応をしていくかを一緒になって考えていきます」

元気な子どもが生まれる一方で、障害のある子どもも生まれている。選択できる世の中になったからこそ、こうした問題に寄り添って自分自身の問題として考えることが必要になってくるのではないだろうか。

中西 美穂 フォトジャーナリスト

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なかにし みほ / Miho Nakanishi

1980年生まれ。元週刊誌記者。生殖補助医療、妊娠・出産、障害を中心に取材活動を行う。

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