出生前診断で「判明」、それでも私が産んだ理由 ダウン症児を授かった親たちの告白
「この子の将来を考えるためにも診ましょう」
「正直、当時はお腹の子どもに聞きたかったですね。『お前は生まれてきたいのか?』って」
お菓子を夢中で頬張る倖太くん(5歳)を見つめながら話すのは、父親の矢口貴史さん(44歳)だ。
母親の紀子さん(41歳)が、36歳のとき、妊娠9週目の健診で医師から首のむくみを指摘され、精密検査を受けることになった。そこで胎児にはダウン症の多くの特徴が認められ、「ダウン症でほぼ間違いないだろう」と言われたという。
確定させるために出生前診断を勧められたが、矢口さん夫婦は一度、その申し出を断っている。
「最初から何があっても、産もうと話していました」と貴史さんは、すっきりとした表情で話し出した。
「だから出生前診断を受ける意味はないのかなと思い、一度は断りました。でも先生に『ダウン症であれば、出産後に合併症が見つかる可能性が高いので、この子の将来を考えるためにも診ましょう』と言われ、受けることにしました。そうすると結果はやはりダウン症でした」
ダウン症などの出生前診断が一般的になり、より確実に病気の有無がわかるようになっている。今から約6年前にスタートした新型出生前診断では、診断を受けたのが一部の妊婦に限られることを差し引いても、陽性となった約95%の妊婦が中絶を選択する事実も明らかになったところだ。ダウン症の「ある」「なし」によって決断する。そうした時代になっている。
出生前診断の一歩手前、受精卵の段階で病気の有無がわかる着床前診断も広がりそうだ。日本産婦人科学会によって審査の迅速化、対象の拡大化が進められているからだ。
私たちはいや応なく、こうした現実に直面せざるをえない状況に遭遇する。顔を背けることが厳しくなってきており、より真剣に向き合わなければいけない問題として、今後、私たちに降りかかってくることになるのは必至だ。
胎児診断専門施設「クリフム夫律子マタニティクリニック臨床胎児医学研究所」(大阪市天王寺区)を開設した夫律子(ぷぅ・りつこ)医師に話を聞いた。
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