中国全人代が開幕、「GDP倍増」は実現できるか 米中貿易摩擦受け、目立つアメリカへの配慮

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昨年の成長率の低下は米中貿易摩擦の結果というよりも、2018年前半に債務削減策(デレバレッジ)と緊縮財政を進めた結果だ。中国は昨年6月末時点で非金融企業部門だけでGDP比253.1%の債務を抱える。この数字は2008年6月末には140.2%にすぎなかったが、その後に起きたリーマンショックを受けて4兆元の投資を伴う景気刺激策が発動され、負債が急拡大したのだ。

2017年10月の共産党大会が終わると、それまでに膨らんだ債務の整理が課題となった。2018年には政府・企業のデレバレッジと緊縮財政が経済政策の基本線となった。GDPに対する財政赤字の比率が前年実績より0.3%低い2.6%に設定されたことを受け、インフラ投資は急減した。

一連の政策は景気を想定以上に冷やすことになった。資金難に陥る企業が続出し、世間の批判にさらされた中国人民銀行(中央銀行)は2018年6月から預金準備率を計4回、3.5%も引き下げて13.5%にするなど、金融緩和に転じた。

減税による消費刺激は期待できない

財政面での景気対策は「4兆元」の再演を避けるために減税が柱となった。今年1月から新個人所得税法が施行されたが、先行して昨年10月から基礎控除額が3500元(1元は約16円、約5万6000円)から5000元(約8万円)に引き上げられた。中国の財政部(財務省に相当)は、年間3200億元の減税になると見込んでいるが、大和総研の齋藤尚登・主席研究員は「減税の対象は限界消費性向の低い中高所得者層で、消費刺激効果に多くを期待できない」と分析する。

こうした状況下で、全人代で景気底割れを防ぐための政策がどのように打ち出されるかが注目されてきた。李首相は5日、2019年予算について、財政赤字はGDP比で2.8%と2018年より0.2%高い数字を示した。

地方政府特別債の発行額は2.15兆元で、2018年より8000億元多い。特別債は一般的な地方債とは違い、元利償還の財源が事業収益に特定されているうえ地方政府の保証がつかない。つまりインフラ投資の財源を財政と切り離すための施策で、できるだけ財政負担なしでインフラ投資を増やそうとする姿勢がうかがえる。

鉄道投資は8000億元(2018年予算は7320億元)、道路・水運投資は横ばいの1.8兆元とする計画だ。有力な経済学者からも「財政赤字がGDP比3%を超えてもかまわないから、大規模な景気刺激策を決断するべきだ」という声が上がる中で、政府としては踏みとどまった格好だ。

2019年の中国の成長率は前半に6.0%前後にまで低下、一連の下支え策を受けて7~9月期から持ち直しても通年6.2%程度という見方が中国のエコノミストの間では共有されている。この水準なら、翌年も6.1%程度の成長をすれば「小康社会」は実現可能と見られている。ただし、それは国内外で安定した情勢を保てればのことだ。

今年の政府活動報告では、昨年にはあった「中国製造2025」への言及がない一方、「内外企業を一視同仁とし、外国企業の権益を保護する」と述べるなどアメリカをはじめ外国への配慮が目立った。「世界はこの100年にない大変化を迎えている」と李首相はいう。複雑な国際情勢のもと、難しいかじ取りが続く。

西村 豪太 東洋経済 コラムニスト

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にしむら ごうた / Gota Nishimura

1992年に東洋経済新報社入社。2016年10月から2018年末まで、また2020年10月から2022年3月の二度にわたり『週刊東洋経済』編集長。現在は同社コラムニスト。2004年から2005年まで北京で中国社会科学院日本研究所客員研究員。著書に『米中経済戦争』(東洋経済新報社)。

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