私はこれらの話をした後で、貴之に言った。
「婚約中には、みなさんいろいろなもめ事があったり、けんかをしたりして、それを乗り越えられれば夫婦になっていく。決裂してしまえば婚約解消をしていく。2つに分かれていくんですよ」
私の話を真剣な表情で聞いていた貴之が言った。
「乗り越えられるか、婚約解消になるか。その分かれ目ってどこにあるんでしょうか」
「これは相手の立場に立って、物事を考えられるかどうかなんですよ。それが思いやりですよね」
結婚できない人には太い「自分軸」がある
人それぞれに、嗜好がある。それまで生活してきた環境の中で、自分はこう生きていきたいというマイルールがある。
「今回閑静な住宅街に家を買いたかったのは、大都会で忙しく働いているのだから、お休みの日には緑があふれる街で、のんびりと過ごしたいと思ったからですよね。
でも、年老いたお母様は、昼間1人でその家にいる。買い物に行くのも不便、病気になったらタクシーを呼ばないと病院にも行けないような環境で暮らすのは、不安だと思うんですよ」
そんな母親を思っての美恵子の言葉だったのだろうが、彼女に貴之を思いやる気持ちがあるのなら、「母を不安にさせるような態度を今後も取るなら、この結婚自体を考え直したい」という言い方ではなく、「これからどんどん老いていく母が、病気になったり買い物に行けなくなったりしたときに、私たちが母の世話をしなくてはいけなくなるから、逆に手がかかるわよね」という言い方をすれば、貴之も憤慨しなかっただろう。
「確かに鎌田さんのおっしゃる通りですね」
婚活を続けても結婚できない人というのは、太い自分軸がある。自分で作ったマイルールを正解だと決めつけて、パートナーに押し付けようとする。
スルリと結婚をしていくのは、相手の欠点を見逃すこと、失敗を許すこと、ささいなことにも“ありがとう”という感謝の気持ちを伝えられることができる人たちなのだ。
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