当時40歳と45歳のカップルが結婚に至るまでに2年の月日を費やしたというのだから、2人とも相当な慎重派なのだろう。
「私たちの場合、子どもは望んでいなかったので、お互いの価値観のすり合わせを焦らずにしてきたんですね」
そんな2人だったのに、ここにきて何を迷い出したのか。
パートナーより自分の母親が優先
「彼女は父親がすでに他界していて、年老いた母親と今一緒に暮らしているんです。一人っ子なので母親を心配する気持ちはわかるのですが、どうも私よりも母親を優先するようなところがあって」
まず婚約したときに、“結婚後は養子に入ってほしい”と提案されたそうだ。
「私の父はすでに他界しているんですが、母には内縁のパートナーがいるし、家がどうとか戸籍がどうとか言う家族ではなかったので、養子に入ることには快諾をしました」
ところが、3人でどこに住むかという住居の問題でもめ出した。
「知人に不動産関係者がいまして、その方からいい物件を紹介されたんです。場所は東京郊外なんですが、駅から徒歩10分圏内の広い一戸建てでした。僕はそこに決めたかったのですが、彼女がどうしても嫌だと譲らなかった」
美恵子と母は、現在都心の駅から徒歩5分圏内の賃貸マンションに暮らしていた。駅から家に帰るまでに、食品も生活用品も一通り買いそろえることができる便利な立地だ。
「私が決めようとした家は駅前も寂しい、閑静な住宅街なんです。でも、住むには落ち着いていていい環境。ところが彼女は“あんな不便な場所に行ったら、お母さんが生活しにくくなる”と言うんですね。“お母さんのことを何も考えてくれていないのね”となじられました」
確かに70歳を過ぎた老人が、半径500メートル圏内で食べ物も生活用品もすべて調達できて医療施設も整っている環境から、車がなければ生活できない郊外に移り住むとなったら抵抗があるのだろう。
「私が値段との折り合いを考えて見つけた物件に対して、その酷評ぶりがすごかったんですよ。もっと言い方があるんじゃないかなって」
新居を購入することを喜んでもらおうと、美恵子と母の前で言ったのに、反応が真逆だったことに貴之は憤慨し、ガックリと肩を落としてしまった。すると、次に会ったときに美恵子に言われた。
「母が、『貴之さんの気分を害してしまったのではないか』って、すごく気に病んで、あの夜はご飯も食べなかったの。その姿を見ているのがとてもかわいそうだったわ」
美恵子は再婚なのだが、そのときにこうも言われた。
「年老いた母に嫌な思いはさせたくない。私がバツ2になるようなことはしたくない。母を不安にさせるような態度を今後も取るなら、この結婚自体を考え直そうと思ってますから」
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