「産後クライシスを回避せよ」にご用心! このままでは誰も幸せになれない!
「産後クライシス」という言葉が話題になっている。NHKの朝の情報番組が作った造語である。その番組スタッフが著した書籍によれば、「出産後に夫婦の愛情が急激に冷え込む現象」のことである。東洋経済オンラインでも日本人を襲う「産後クライシス」の衝撃 のいいね!数が5000を突破していることから、関心の高さがうかがえる。
「産後クライシス」という言葉は新しいが、そういう現象自体は古今東西で知られている。しかし、もし上記の書籍を読んで素直に納得してしまった人がいたとするならば、男性であれ女性であれ、すでに親である方もそうでない方も要注意だ。大切な視点が欠落している可能性があるからだ。
本題に入る前に、まず前提をいくつか押さえておきたい。
「産後クライシス」という現象は、ライフスタイルの変化や子育て生活への不安など心理的な理由だけでなく、生理的な理由、具体的にいえばホルモンバランスも関係して、複合的に引き起こされるもの。なにか、ひとつかふたつの要因を除外すれば防げるという単純なものではない。出産直後の女性が、夫に対して肯定的な感情を抱きにくくなること自体は、一般的に起こる現象であると、海外の大学の研究結果でも示されている。
また、NHKが産後クライシスの“根拠”として示しているベネッセ次世代育成研究所のデータは、「配偶者と一緒にいると本当に愛していると実感する」についての回答のみである。確かに出産後2年で、この問いにYESと答えた妻の割合は、夫のそれよりも明らかに低い。そこでNHKは、「妻の気持ちが離れているのにそれに気づかないのんきな夫」という構図で、産後クライシスを描いた。
しかし考えてみてほしい。もし結果が逆で、産後、夫から妻への愛情を感じる割合のほうが低ければ、「出産を機に、夫は妻への関心を失う。やっぱり男は無責任!ひどい!」という話になっておしまいだったであろう。
また、同じ調査で「私と配偶者は幸せな結婚生活を送っていると思う」という割合については、男性も女性もそれほど大きな差はない。つまり、結婚満足度については男女に大差はないと言っていいだろう。