「産後クライシスを回避せよ」にご用心! このままでは誰も幸せになれない!

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私のこれまでの取材経験やカウンセリング経験からすると、「育児や家事をたくさんやれば妻から愛され続ける」という理屈は成り立たない。むしろ、「妻から愛されていると、ちょっと育児や家事をしただけでも高評価をもらえる」という理屈のほうが正しいように思われる。

そもそも世間一般でしばしば言われる「少子化を防ぐために子どもを生もう」「産後クライシスを防ぐために育児をしよう」というたぐいの理屈は、一見正論だが、非常に三人称的な言い方である。言えば言うほど、出産や育児を「目的」のための「手段」におとしめてしまうという負の側面があるから気をつけるべきだろう。

またいくら正論であっても、「あなたが悪い」と一方的に責められれば、誰だって反感の気持ちを抱き、新たな対立構造が生まれるし、現実が伴わないのに「男性はもっと育児をすべき」という一般論があおられればあおられるほど、妻が夫に期待する「ハードル」は上がり、理想と現実の間で感じる落胆も相対的に大きくなる。結果、産後クライシスはますますこじれていくのである。

このままでは誰も幸せになれない!

産後クライシスを周知し、これから出産する夫婦が心構えをしたり、すでに似たような状況にある夫婦が、現状を納得して冷静さを取り戻してもらうことはいいことだ。しかし、「産後クライシスを回避するために男性も育児しなければならぬ」と声高に叫ぶことでは、結局、誰も幸せになれないのだ。

心理学の家族システム論的に見れば、産後クライシスは、必ずしも夫婦関係が壊れかけていることを意味してはいない。産後クライシスには意味があるのだ。それが冒頭に指摘した「大切な視点の欠落」だ。

たとえば、妻は、思いどおりにならないことへの適応力を高める。これが子育ての予行練習にもなる。夫は、理不尽なことを受け止める懐の深さを身につける。長い人生において、理不尽に際しても、家族を守る覚悟ができているかどうか、試されているのだ。また、妻も夫も、不平や不満があるときには口に出せばいいのだということを学ぶ。そして、夫婦げんかにおいては、いつまでも相手に不平や不満をぶつけるだけでなく、お互いに思いやり助け合わなければ前に進めないことも学ぶ。

こうして、子どもを育てていく中で、さまざまな困難や危機に直面しても、コミュニケーションパニックに陥ることなく、力を合わせることができるチームワークが培われる。

25年以上の結婚歴を持つ人々を対象としたある調査によると、彼らに共通する要素は、夫婦の間に問題がないことではなく、むしろさまざまな葛藤あるいは不一致に遭遇しながらも、夫婦がジレンマを乗り越える希望を失わず、ある種の楽観主義を持ち続けていたことだったのである。

時にはガツンとぶつかってもいい。大変だが、最終的にお互いを認め合うことができれば、「夫婦のチームワークの成長」というかけがえのない見返りが待っている。会社組織やスポーツのチームでも同じだろう。

産後クライシスを「ふたりが最強のチームになるためのトレーニング」だと考えてみたらどうだろう、ということである。

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