乙武:なるほど、それを装具で補助しているんですね。太ももの筋肉を切除したことは、スポーツはもちろん、日常的な動きに支障はないものなんですか?
池:外側の筋肉をすべてとり、膝から下の感覚もなくなってしまったので、最初は歩くことはもちろん、動かすこともできなかったんです。それがリハビリによって、他の部位の筋肉でそこをカバーできるようになりました。そのリハビリにいちばんいいというのが、水泳を始めたきっかけなんですよ。
乙武:すると、いまも太もも外側の筋肉はないままということですよね? メディアを通して見ていると、池選手の障害は足首だけのように伝えられがちですが、これは大きな誤解かも。水泳という競技において、これはけっこう大きな違いでしょう。
池:そうですね、水泳はキックが重要なので。ターンのときも、左足では蹴れないので、左足に右足を重ねて右足の力だけで蹴ります。でも、水泳は四肢を切断している選手も少なくないので、見た目から軽度の障害と思われがちなのは悩みの種ではありますね。
目指すのは健常者のパートナー越え!?
乙武:アジアではすでに金メダルも取っている池選手ですが、世界的な舞台となると、このクラスは強豪ぞろいですよね。
池:そうなんですよ。水泳はとくに欧米が強いので、アジアで一番になったからといって、必ずしも世界でも通用するとは限りません。
乙武:それでも池選手には、2020年の東京パラリンピックでメダルが期待されています。最も自信のある種目は?
池:100メートルバタフライですね。自由形や平泳ぎはキックの比重が大きいので、バタフライが一番、ハンディが少ないんです。
乙武:では、池選手がいまライバルとして意識しているのは?
池:ニュージーランドのソフィー・パスコーという選手が自分のクラスのチャンピオンなので、当然意識してはいます。しかしそれよりも、普段一緒に練習している健常者の選手のほうが、存在としては大きいかもしれません。
乙武:おお、それは興味深い。以前この連載にご登場いただいた陸上の芦田創選手も、「健常者に負けたくない」と強い決意を語ってくれました。池選手も思いは同じ?
池:いまはついていくのに必死な状態ですが、健常者の選手と台頭に競えるようになるというのは、私にとって大きな目標です。いつも一緒に練習しているパートナーに勝てたら、パラリンピックでのメダルも夢ではないと思っています。
乙武:それにしても、日体大という強豪校の中で、健常者に混ざってトレーニングをするというのは、パラアスリートとして非常に過酷な環境を選択しましたよね。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら