アップル「意識低い系」マーケティングの正体 iPhoneが日本で売れたのは「超単純」な理由だ

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友達と同じ機種では、個性が出ないではないか。そう思われるかもしれませんが、女子高生はスマホのOSや機種で人と差別化する気などありません。どのスマホも見た目はほとんど変わらなくなってきていますし。しかも、皮肉なことに出荷台数が多いiPhoneのほうが、ケースなどの周辺機器が豊富で、細かな個性が出しやすくなっているのです。

行列ができるラーメン屋と聞くと食べてみたくなるように、人気を演出することの効果はここにあります。広くモノを売るには、この安心感を与えることが重要です。

さらにiPhoneが日本で大きなシェアを獲得したのは、ドコモやKDDI、ソフトバンクといったキャリア(通信事業者)がiPhoneを安く提供したからです。アップルは、iPhoneを取り扱いたいキャリアに対して、端末や料金をAndroidの端末よりも安くすることを契約の条件としていました。工業製品で数が出ることは、生産コストを下げ利益率が高まることを意味します。安いので売れる、売れるから安くできるという好循環です。

そして、安さこそ誰にでもわかるメリットです。安ければ、手元に残るお金も増えますし、商品に満足できなかったとしても、安かったからと納得しやすい。「安さ」も「みんなと同じ」と同様に安心感をもたらす要素です。

「安さ」以外の意識低いポイントが必要

日本メーカーで、「安さ」を重視して成功したのは、かつてのパナソニック(松下電器産業)です。儲かるかわからないうちは様子見で、儲かるとわかったら参入するスタイルをかつてはとっていました。テープレコーダー、トランジスタラジオ、テレビ、ビデオデッキなど、ソニーが開発したジャンルに後から参入し、シェアを奪っていったのです。

「マネシタ電器」と揶揄されようとも、これが通用したのは、他社よりも圧倒的に安い価格で製品を売ったからです。価格の設定から商品の開発を行うのですが、他社よりも3割、5割安い価格が設定されることもあったといいます。

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安さを突き詰めると、無料です。「ただより高いものはない」と昔の人はそのリスクを戒めていましたが、インターネットが普及してからは、フリーミアムのサービスが当たり前になってきました。フリーミアムとは、基本的なサービスを無料とすることでユーザーを集め、一部の機能を有料で提供することで収益を得るビジネスモデルです。

ただ、価格競争は圧倒的な市場シェアを持っている企業はともかく、多くの企業には利益をもたらしません。松下電器が急成長していた時代は、家電の市場自体が拡大していたために、価格競争をしても利益が出ました。フリーミアムのビジネスは利益が出るまでに多くの資金を要しますし、シェアの上位に立たなければまったく儲かりません。

大多数の企業にとっては、「安い」以外で普通の人に刺さる「意識の低い」ポイントを探り当てる必要がありそうです。

小口 覺 ライター、コラムニスト
おぐち さとる / Satoru Oguchi

1969年兵庫県生まれ。明治大学法学部卒業。ITや家電を中心に各業界のモノとビジネスのあり方をウォッチ、『DIME』『日経トレンディネット』などの雑誌やウェブメディアで活躍する。

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