アップル「意識低い系」マーケティングの正体 iPhoneが日本で売れたのは「超単純」な理由だ
iPhoneやMacを作っているアップルには、世界を変えた革新的な企業というイメージがあります。CMやアップルストアがオシャレといった意見もあるでしょう。
アップルのそういったイメージの多くは、創業者のスティーブ・ジョブズによるものです。並外れた美意識を持ち、テクノロジーによって世界を変えたジョブズは、単に優れた経営者以上の存在として、世界中のファンから愛され尊敬されてきました。
ジョブズの仕事に対する姿勢はかなり高く、理想の製品のためにすべてを注ぎ込みました。無理難題を部下に課し、そのため精神を病んで辞める社員も多かったといいます。見ようによってはブラック企業的な感じもします。
厳しかったのは、部下に対してだけではありません。ペプシコーラの社長(ジョン・スカリー)を会社に引き抜こうと説得する際に発した、「このまま砂糖水を一生売り続けたいのか、それとも世界を変えたいのか」というセリフなど、「超上から目線」です。
ジョブズが製品作りで最もこだわったのが、デザインです。一般的に、テクノロジー製品は機能やスペックを優先するあまり、デザインは後回しになりがちですが、ジョブズはデザインでは決して妥協せず、コストやスケジュールを無視することもたびたびでした。
美意識、こだわり、完璧主義。そして、世界を改革しようとする意志。それゆえに周囲を振り回し、時に上から目線にもなる。こうした態度や性格をまとめて表すなら、「意識が高い」ではないでしょうか。では、「意識の高さ」こそがアップルの成功のカギなのでしょうか?
コンピュータを誰でも使えるようにしたアップル
改めて考えてみましょう。本当にそうした「意識の高さ」が、ジョブズやアップルの成功した理由なのでしょうか。
MacやWindowsが登場する以前のコンピュータは、コマンドと呼ばれる文字列を入力して操作する必要がありました。それを画面上のアイコンやボタンを操作するように変えたのが、「マッキントッシュ(今のMac)」などのコンピュータです。マウスやタッチパッドを使う、今のパソコンのスタイルで、GUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)と呼ばれます。
現在最も一般的なWindowsもこのスタイルをまねたものです。だから、Macユーザーは「アップルこそが元祖だ」と胸を張ります。しかし、実のところ、この仕組みはアップルが発明したものではありません。
ジョブズらアップルの開発スタッフは、GUIを研究していたゼロックス社の研究所を視察し、その技術に触発されてマッキントッシュを作ったのです。パクった、アイデアを盗んだと言ってもいいでしょう。これ、意識高いですか?
当時、コンピュータの専門家からは、アップルの作るコンピュータはオモチャと評されることもあったようです。今と比べるとメモリーやハードディスクの容量は小さく、プロセッサーの処理能力は低かったので、貴重なコンピュータの能力を、見た目などの「わかりやすさ」に使うのは、もったいない、無駄なこととされたのです。