アップル「意識低い系」マーケティングの正体 iPhoneが日本で売れたのは「超単純」な理由だ

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知識やスキルが高い人は、「わかる人にわかればいい」という気持ちになりがちです。ジョブズも早くからコンピュータの面白さに目覚めており、一通りのスキルを持っていました。しかし、彼は上から目線ではなく、誰もが使えるコンピュータを作ろうとしました。コンピュータに通じている人で、その将来性に確信を持っていた人は数多くいたでしょう。しかし、それを誰にでも使えるようにしたい、と考える人は多くありませんでした。

「誰でも使える」を言い換えると、「バカでも使える」です。ひどい言い方ですけどね。熱心なアップル信者からは怒られるかもしれません。コアなアップルファンが惹かれているのは、やはり彼らの革新性やイケてる感じだからです。しかし、今ならスマホの使われ方を見れば一目瞭然でしょう。中学生や高校生が、それどころか幼児でも自在に使っています。

専門家は「スマホのヒット」を予測できなかった

スマホの話が出たので、こちらも過去を振り返ってみましょう

「iPhone」が日本で発売されたのは今から10年ほど前の2008年ですが、その当時、専門家の間では「日本でスマートフォンははやらない」という意見が多数派でした。

その理由とされていたのは、従来型の携帯電話「ガラケー」の存在です。おサイフケータイやワンセグ、防水など、初期のスマートフォンにはない機能が搭載されていたため、その地位は簡単には揺るがないと考えられていました。

しかし、iPhoneはヒットし、以後Androidを含むスマートフォンはまたたく間に普及しました。日本向けのモデルは、おサイフケータイや防水の機能を取り込み、逆にほとんどのスマートフォンが採用しなかったワンセグは、テレビ離れと相まって、ほとんど使われないサービスになったほどです。

このように、未来予測は専門家でも難しいものです。インターネット(Web)がパソコンから使えるようになった1994年頃、筆者のまわりでは一部のPCの専門家が、「インターネットなんてはやらない」と言っていました。恐ろしいですね。

実は、最もシンプルな理由でiPhoneを買っているのは、女子高生をはじめとする若い女性です。スマホは彼女たちにとって欠かせないアイテムですが、中でもiPhoneの人気が飛び抜けています。うちの娘が高校に進学するときも、「中古でもいいからiPhoneがいい」と言われました。

彼女たちは、かつてのMacファンのように、ジョブズの思想に共鳴してアップル製品を支持しているわけではありません。なぜiPhoneなのか、調査してみたところ、最も大きな理由は、「友達がみんなiPhoneだから」でした。

「みんなと一緒がいい」は、自分の主体性がありませんから、かなり意識の低い理由です。きちんとした親や学校の先生なら、「自分の頭で考えなさい」と諭すはずです。大きな話をするなら、自分で考えずみんなと一緒でいい、では民主主義が正常に機能しません。

とはいえ、人気の商品を購入するのは、本能的な安心感がそうさせているのでしょう。人気なのはそれだけいいモノだという推測も成り立ちますし、万が一失敗だったとしても自分だけ損することが避けられます。「人と同じ」は、あまり頭を使わなくても失敗しないための生存戦略なのです。

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