採用プロドットコム株式会社
日本経済を牽引してきた自動車や電機といった輸出産業が国内外の生産拠点の操業を縮小。また、設備投資計画も白紙撤回や延期決定が続出するなど、大幅な生産調整と雇用調整の発表が後を絶たない。何千人単位という非正規雇用社員の人員削減に取り組むなか、“新卒採用だけが聖域というわけにはいかない”ということが産業界からのメッセージとなりつつある今、2010年春の新卒採用活動は、未曾有の採用マインドの収縮をともなったスタートとなっている。この原稿執筆時点では、円はドルに対し80円台後半を行き来する攻防を繰り返し、日経平均は9000円の背中すら見えていない。急速に進む円高による収益の減少、予想を遥かに超える株安による財務の悪化は、ビジネスをグローバル化した企業経営においては、新規人材採用よりも優先されるべき喫緊の経営課題となっている。
●従業員5,000人以上の企業の40.2%は“わからない”と回答
早すぎる採用・就職活動の相関関係を見直す時期ではないのか
まず、2008年12月9日に発表された【2010年卒者の新卒採用見通し(大学生・大学院生)】と題されたリクルートの調査結果を見てみる。
ここで注目したいのは、日本経済を代表する企業であり、紛うことなき新卒採用のリーディング・カンパニーでもある従業員数5,000名以上のグローバルプレーヤー189社の回答だ。このクラスの規模の企業は例外なくグローバルな展開に取り組んでいる企業。そのカテゴリーの回答だが、『2010年卒者の新卒採用数の増減について40.2%の企業が「わからない」と回答』している。さらに、この40.2%という数字は、その他の従業員規模別カテゴリーと比較して最も高い割合を示していることに目がいく。ちなみに他のカテゴリーは、「わからない」と回答した割合はすべて20%台であることから、従業員数5,000人以上の「わからない」の割合40.2%は突出した数字。
景気の先行きが見えている場合、新卒採用計画の一般的な策定のタイミングは、早ければ大枠を年内から年度末くらいに決定していくことが多い。しかし、現時点では「40.2%の企業が“わからない”」と回答している。従業員5,000人以上の企業ともなれば、新卒採用数を従業員数の2%としても100人、堂々の三桁採用。採用数が“わからない”状態で質を重視した100人の新卒採用を進めることは不可能である。つまり、例年、三桁以上の採用を実施している大手企業が現時点で開催している会社セミナーなどの採用活動は、その4割以上が採用数もわからないまま(おそらく“減らす”方向に振れるだろうが)、暫定的に実施しているということになる。
このような状況下で、もし2010年春の新卒採用において現時点で“わからない”と回答していた従業員5,000人以上の企業から、「採用数半減」という発表がなされたとしたら…。そして、そのような発表をトヨタやキヤノンクラスの企業からなされたとしたら…。2010年春の新卒求人数は「50%減」という数字がひとつの指標となり、他企業もそれに追随。雪崩現象的に採用縮小の発表が相次ぐことは確実だろう。
採用は中止しないが、半減。しかし、採用活動はインターンシップも含めれば例年通りのスケジュールで進行していた…となれば、学生は梯子を外された気分になることは間違いない。しかも、メーカーがそのような計画を推進する場合、理工系の採用を優先するため真っ先に削減の対象となるのは、年内から熱心に合同セミナーやオープンセミナーに参加している文系の学生だ。就職活動中でも景気や経済の多少の変化は避けられない。しかし、グローバル化が進んだ今、変化の振れ幅の大きさは百戦錬磨の経営者やアナリストでも予測が困難だということが今回の経済危機でも証明された。
景気の見通しが良好ならば問題はないのだろうが、好景気は未来永劫続くわけではない。そのことはバブル崩壊を教訓とするため、社会全体が授業料を払って学んだはずだ。
かつてのように最終学年からの採用選考ならば、今回のような内定取り消し騒動は起こらなかった可能性が高い。
頻発する内定取り消し発表を対岸の火事と見過ごさず、他山の石とする意識が必要になってきた。学生の立場に立ってみれば「3年生の夏休みから(下手をすれば入学後すぐから)、煽るだけ煽っていざ本番では採用数半減…」というのが正直なところ。「1年前に生まれれば良かったのに」というどうしようもない閉塞感を抱かせることこそが、ロストジェネレーションと言われる世代を作り出す行為そのものである。
「働きたい人が働けない」という非正規労働者の雇用問題とは異なり、新卒分野ではまだまだミスマッチの解消という課題が残されている。企業は今こそ、早すぎる就職活動と採用活動の関係を考え直し、新しい枠組みを構築する機会として改めて捉え直すべきではないだろうか。
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