恋敵を呪い殺す「最強嫉妬女子」が見せた純情 あの『蜻蛉日記』も真っ青な『源氏物語』

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気晴らしにお出かけした御息所は何と!禁断の恋に落ちてしまった相手の正妻である葵の上と鉢合わせ。気まずさマックス……。葵の上の従者たちが御息所の牛車をぐいぐい後ろに押し込むので、車も心もプライドも粉々に。自分がただの愛人なうえに、源氏の君から大事にされていないという、みじめな姿が世間にさらされてしまう。その悔しさといったら……。

『蜻蛉日記』でも、正妻と愛人が鉢合わせる場面がある。『源氏物語』のエピソードに比べると臨場感に欠けるかもしれないが、ライバル2人の間で繰り広げられる言葉のバトルにハラハラドキドキ。

正妻をとことんこき下ろすみっちゃんはやはりすごい

『蜻蛉日記』ならではの「車争い」はこちら。

この頃は、四月、祭見に出でたれば、かの所にも出でたりけり。さなめりと見て向かひに立ちぬ。待つほどのさうざうしければ、橘の実などあるに、葵をかけて、あふひとか聞けどもよそにたちばなのと言ひやる。やや久しうありて、きみがつらさを今日こそは見れとぞある。「憎かるべきものにては年経ぬるを、など今日とのみ言ひたらむ」と言ふ人もあり。帰りて、「さありし」など語れば、「『食ひつぶしつべき心地こそすれ』とや言はざりし」とて、いとをかしと思ひけり。
【イザ流圧倒的意訳】
この頃は、四月、葵祭の見物に出かけたところ、あの女(兼家の正妻、時姫)もいた。すぐにわかって、通りの向かいに牛車を止めてやった。行列が来るのを待つ間はやることなく、橘の実などがあるので、葵の葉をひっかけたものに歌を添えて「人に会う日だと聞いているけれど、あなたは車を立ち止めたままだね……」と送った。だいぶ時間が経ってから、「あなたの冷たさを今日、初めて知ったわ」という返事が来た。「ええ!?長年憎たらしい存在と思っているはずなのに、なんで今さら『今日』って強調するわけ?これまでは気にしてなかったりして!」とその返事を聞いて驚いた反応をする侍女がいた。屋敷に戻り、たまたま来ていた兼家にその話をすると「噛み千切ってやるとか言わなかったか」と彼が私たちのやり取りを面白がっていた。

兼家と道綱母がまだ仲が良かった時期の記録。しかし、公の場で正妻と愛人がばったり会ってしまうなんて修羅場の臭いがぷんぷんする。一生忘れない憎たらしい相手にガツンと言ってやることができないというのはこの時代の最もじれったいところだ。

ここで特に気になるのは「やや久しうありて」という言い草。自分は手持ち無沙汰だわ、と思ったらぱっと歌を詠むことができるが、時姫は返事をよこすまでだいぶ時間がかかってしまう。つまりそれほどスマートではないということが強調されている。

負けるまいという競争心が働き、時姫に仕えていた女たちも一緒になって頭をフル回転させてブレストをしている姿が目に浮かぶ。そして、向い側の車の中に、困っている相手を鼻で笑っている道綱母のドヤ顔も大いに想像できる。そのエピソードを聞いた兼家も正妻をからかい、愛人の肩を持っている様子を示しているので、今回ばかりは道綱母の勝利に終わるが、2番手であることには変わりはない。自分はもっとイイ女なのに……という悔しい気持ちはその「やや久しうありて」という言葉に凝縮されている。

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