恋敵を呪い殺す「最強嫉妬女子」が見せた純情 あの『蜻蛉日記』も真っ青な『源氏物語』

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結婚して子どもができて間もなく、道綱母の夫・兼家の訪問ペースがぐっと減る。正妻になる見込みもなく、最初から2番手という不安定な立場がなお一層不安定に。すでにムカつく。そして、夫が違う女に宛てた手紙を発見してしまい、夫の浮気が確定。さらにムカつく。しかも、その女、『蜻蛉日記』に出てくる愛人その一、つまり「町の小路の女」は、自分より家柄も顔もスキルも何もかもレベルが低いと知る。つい怒り狂っても仕方あるまい。

孫王の、ひがみたりし親王の落し胤なり。いふかひなくわろきことかぎりなし。ただこのころの知らぬ人の、もてさわぎつるにかかりてありつるを、にはかにかくなりぬれば、いかなるここりかはしけむ。
【イザ流圧倒的意訳】
あの女は天皇の孫娘だが、ロクでもない皇子の隠し子だわ。いう価値もない、くだらない素性だ。いろいろな事情を知らないこの頃の人たちが騒ぐからいい気分になっていただけなんだろうね、実にみっともないわ。こんなことになってどう思うだろうね。

愛人と正妻が鉢合わせるという修羅場

言葉の端々から恨みがぐんぐん伝わってくる感じがたまらない。『蜻蛉日記』は「日記」と言ってもリアルタイムでつづられていたわけではなく、作者がこの文章を書いたときにはすでに10数年も経っていると推測されている。それでもやはり自分より劣る(と思う)相手が選ばれたという侮辱は忘れないものである。

御息所と道綱母の共通点は、嫌味たっぷりの口調と真の犯人である男ではなく相手の女に怒りを向けてしまうという愚かな思考回路だけではない。たとえば、『源氏物語』の有名なエピソードである六条御息所と葵の上の車争いも、『蜻蛉日記』の歪んだ世界にインスパイヤされていると思われる。

『源氏物語』のバージョンはこちら

「さばかりにては、さな言はせそ。大将殿をぞ豪家には思ひ聞こゆらむ。」など言ふを、その御方の人もまじれれば、いとほしと見ながら、用意せむもわづらはしければ、知らず顔をつくる。つひに御車ども立て続けつれば、副車の奥に押しやられてものも見えず。心やましきをばさるものにて、かかるやつれをそれと知られぬるが、いみじうねたきこと限りなし。
【イザ流圧倒的意訳】
(葵の上が)「愛人の分際でよく言うわ。大将殿(源氏)にそれほど好かれてもいないし、黙ってなさいよ」などと嫌味をいう。葵の上と一緒に来ていた人たちの中で源氏の従者も混ざっていたので、当然御息所のことを知っていて、哀れだと思っていたが、いろいろと面倒なので知らんぷりする。とうとう御息所の車が葵の上のスタッフによって後ろに押しやられて、見物が一切できない状態に。頭にくるというのはいうまでもなく、目立たないようにしていたにもかかわらずみんなにバレてしまったことが悔しくてたまらない。
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