そしてその影響が最も強く表れているのは、六条御息所という人物を取り巻く一連の出来事である。というか……六条御息所の悲劇的な恋を読んで道綱母とリンクさせないでどうするの?!と思うほど。ツンデレな性格も口調も、ストーリーの展開も行動パターンも、歌のスタイルまでが酷似している。
妖艶で美しく、教養も品格もあってものすごくプライドが高い。そして生霊を飛ばすほどの嫉妬深さ。六条御息所は桐壺時代の前の東宮の妃で、一人娘を持つ未亡人だ。源氏の君は17歳のときに、そんな魅力的な女性の噂を聞きつけて、強烈にアプローチをする。当時の彼女は24歳だった。
若僧なんていけない、と言いつつも、源氏の君の情熱にすっかり圧倒され、嫌よ嫌よも好きのうちという感じで関係を持ってしまう。しかし、源氏の君はすでに葵の上という正妻がいたので、自分は身分が高く、見た目も、教育も申し分ないのに、ただの愛人だ。すでにムカつく展開。
そして、ゲットしたものの、文句ばかりの気位の高い女性と一緒にいても心が休まらない若僧の足はすぐに遠のいてしまう。さらにムカつく。しかも、源氏の君は、六条御息所とは真逆のタイプ、おっとりしたかわいらしい小娘の夕顔に早速目移りしてゾッコン。つい生霊を飛ばしてしまっても仕方あるまい。
生霊となって若い愛人を殺しに
夜中に女性の霊が現れて、恨みの言葉をまくし立てた揚げ句、夕顔の命を奪うという迫力のある場面。態度が冷たくなった男のことを思って眠れぬ夜を過ごすうちに、魂がふと抜け出し、生霊となって、光源氏の愛する女性のもとに飛んでいき、呪い殺してしまうのである。物語の中では、それが御息所の仕業なのかどうか明確になっていないが、源氏の君の日頃の行いを考慮するとそう考えても差し支えない。
これはもちろん想像上の話ではあるが、背景も恋の行方も、そしてその鬼気迫る勢いと尋常ではない嫉妬深さには覚えがあるはず。そう、そこそこの身分、申し分ない美貌、歌のセンスも抜群の道綱母である。
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