日本人は「人口減少とAI化」に立ち向かえるのか 東京一極集中のままでは少子化は止まらない

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今や日本を代表するグローバル企業であるコマツは、国内の雇用をたいへん重視しているお手本のような企業です。同社の坂根正弘・相談役は2001年に社長に就任して以降、事業の選択と集中を進めアメリカのキャタピラーに匹敵する高収益体質をつくり上げた凄腕の経営者でありますが、その坂根氏が社長時代からコツコツと進めてきたのが、創業地である石川県への地元回帰を中心とした本社機能や工場の地方への分散であります。(203ページより)

第一歩として2002年に、東京本社にあった部品調達本部を石川県の小松市に移転。次いで2007年には石川県金沢市と茨城県ひたちなか市に新たな港湾工場をつくり、2011年には本社の教育研修組織と複数拠点に分散する研修施設を統合し、小松市に総合研修センターを開設。これまでの一連の地元回帰では、150人以上の社員が本社などから石川県に転勤していったという。

少子化対策として大きな効果が

ちなみにコマツのそうした取り組みに共感する中原氏は、2017年と2018年の2回にわたり、坂根氏にインタビューしている(東洋経済オンラインの記事では、2017年7月27日・28日、2018年9月11日・12日の4回におよびインタビューが掲載されている)。

坂根氏は「なぜ本社機能を地方へ分散したのか」という私の素朴な問いに対して、「その本質的な動機は、この国の深刻な少子化問題を解決したいという思いにある」と強い使命感を持って答えています。コマツは1950年代に石川から東京に本社を移転し、その後は工場も輸出に有利な関東・関西に移していますが、多くの地方企業が同じような歴史を辿ったことによって、東京への過度な一極集中とそれに伴う少子化を加速させてきたという現実をしっかりと受け止めなければならないというのです。(205ページより)

注目すべきは、コマツの本社機能の地方への分散が、少子化対策として大いに効果があったと認めることができる数字を残しているという事実だ。コマツのまとめたデータによれば、30歳以上の女性社員では東京本社の結婚率が50%であるのに対して石川が80%、結婚した女性社員の子どもの数が東京は0.9人であるのに対して石川は1.9人と、かけ合わせると子どもの数に3.4倍もの開きが出ているというのである(東京0.5×0.9=0.45:石川0.8×1.9=1.52→1.52÷0.45≒3.37)。

坂根氏は地方回帰を進めてきた成果について、「女性社員の出生率が飛躍的に上がっている」だけでなく、「社員の生活が豊かになっている」「退職者の健康寿命が伸びている」などと述べたうえで、「代表的な地方出身企業であるコマツが先陣を切って地方への回帰で成功を収めれば、いずれは他の大企業も次々と回帰の道を辿ってくれるのではないか」という淡い期待も寄せています。坂根氏の思いを酌み上げるならば、コマツは日本の将来を憂い、強い使命感を持って経営にあたっているということなのです。(206~207ページより

現時点において、本社機能の一部を地方に移すという先進的な動きを実践している企業は限られている。しかしコマツの取り組みには、「少子化による人口減少」と「AIによる自動化」に立ち向かう企業のあり方のひとつが明示されているとは言えないだろうか。

印南 敦史 作家、書評家

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いんなみ あつし / Atsushi Innami

1962年生まれ。東京都出身。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。「ライフハッカー[日本版]」「ニューズウィーク日本版」「WEBRONZA」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」など紙媒体にも寄稿。『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)など著作多数。

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