日本人は「人口減少とAI化」に立ち向かえるのか 東京一極集中のままでは少子化は止まらない

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もちろん、「最強のエリート」である医師にしても同じ。高齢化率の高止まりが続いていくであろう社会において、医師の地位は将来も盤石であるように思える。しかし現実問題として、AIやロボットが医師の仕事の8割程度を代替できることが、アメリカでの実証実験などからすでに明らかになっているのである。

これらはほんの一例にすぎないが、こんなところにも、従来の経済学者による常識的な考えが通用しない時代が訪れていることが確認できるということだ。

ほぼすべての経済学者は今でも、技術革新(イノベーション)が経済を活性化させる最大の原動力になると信じています。技術革新により生産性が上がれば、経済の成長力が高まると同時に、雇用の増加や賃金の上昇が起こるだろうと考えているからです。(156ページより)

確かに20世紀の世界であれば、新しい技術が新しい需要をもたらし、新しい雇用を生み出すことができた。20世紀以降の自動車・航空機・電気における技術革新(第2次産業革命)が莫大な産業集積を必要とし、大量の良質な雇用を生み出したことがいい例だ。しかし先の例を引き合いに出すまでもなく、今後は同じようにはいかない。

これから国家や企業がしのぎを削ろうとしている技術革新は、これまでとはまったくプロセスの異なるものです。21世紀以降のIT、AI、ロボットによる技術革新(第4次産業革命)は、コストを抑えるために自動化を最大限にまで推し進め、これまでの産業集積や良質な雇用を破壊していくという性格を持っています。生産性が飛躍的に高まることで、経済の成長力が高まるというのはある程度は肯定できるものの、先ほど述べたように、資本家の取り分が圧倒的に増えるかたわらで、労働者の取り分は増えるどころかむしろ減ってしまうという好ましくない結果を生み出してしまうのです。(157~158ページより)

少子化対策に一石を投じるコマツの取り組み

そして先に触れたとおり、日本が懸念すべき最大の問題は少子高齢化しかありえないと中原氏は断言する。少子高齢化が長期に及んでもたらす悪影響は、国の経済規模の縮小にとどまらず、社会保障費の膨張、赤字拡大による財政不安、防災・治安機能の低下など、われわれの生活水準の著しい劣化を招くことになるというのだ。

だとすれば、少子化の大きな流れを緩和するためにはどうすればいいのだろうか? この問いに対して中原氏は、興味深い提案をしている。東京への一極集中がもたらす弊害については先ほど触れたが、その流れを逆転させるためには、「大企業の本社機能を地方へ分散する」しかないだろうと考えているというのである。

大企業が地方で良質な雇用をつくる努力をすれば、それだけで効果的な少子化対策になり、若者の地方からの流出が緩和されることも期待できるというわけだ。そんなことが本当に可能なのかと思われる方もあろうが、それが机上の空論でないことを示すべく、中原氏はここで建設機械大手コマツの少子化対策への取り組みを紹介している。

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