「偽ニュース」への抜本的な対策はありうるか SNSで公然と行われている「情報操作」の現実

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昨年の沖縄県知事選で流れていたデマはTwitter上なので、あとから沖縄タイムスなどの報道機関がリアルタイムに検証できましたが、ワッツアップに流れるデマは、ワッツアップに参加している人が報道機関に情報提供しない限り検証が不可能です。ワッツアップの中で流れたデマやフェイクニュースで、インドではリンチ殺人が起きている。メキシコでも誤解がもとになって無関係の人が火あぶりに遭う事件なども起きている。おそらくこのあいだの沖縄県知事選でも、LINEグループやFacebookグループのように外からは見られないクローズドなメッセージングサービス上でデマが飛び交っていたのではないかと僕は見ています。

一田:私はFacebookほどの企業が自分たちのしていることに無自覚だったとは考えられません。インターネットが普及してないところに、Facebookが無償でインターネットを提供している。そこで現地の人がワッツアップなどを利用すると、デマが飛び交って、殺人事件が起きたり暴動につながったりする。

ネット後進国で起きている「地獄」

こういった現象は特に後進国に顕著です。ネットが今まで普及していなかったところで、地獄のようなことが起きています。私の本では東南アジアの事例を取り上げていますが、多くの国でワッツアップを経由した情報をもとにフェイクニュースやネット世論操作が行われており、ネット世論操作専門のPR会社もできています。完全に社会の仕組みの一部になっているんです。

一田和樹(いちだ かずき)/東京生まれ。経営コンサルタント会社社長、IT企業の常務取締役などを歴任後、2006年に退任。2009年1月より小説の執筆を始める。2010年、長編サイバーセキュリティミステリ『檻の中の少女』で島田荘司選第3回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞し、デビュー。サイバーミステリーを中心に執筆(撮影:大澤誠)

津田:混乱すればするほど、フェイクニュースを悪用する人たちの利益になる状況がある。ロシア、中国などがやり始めて、絶大な効果を上げたことがわかっています。そういう事態が報道されたことで、カンボジアなどの独裁者たちも「これは便利だ」と言って使い始めています。最近では東南アジアがそうです。

今、一田さんがおっしゃったように、民主主義が定着してない国、あるいはこれからインターネットが普及するような国ほど、状況は深刻です。

一田:キーワードに「ハイブリッド戦」「ハイブリッド脅威」という言葉があります。「ハイブリッド戦」とはいわゆる総力戦で、経済、文化、宗教、政治、そして従来の軍事戦も含めて、すべてを集約して戦うことです。その中で、従来の軍事戦を除いたものを「ハイブリッド脅威」と呼んでいます。

そのハイブリッド脅威を、自著『犯罪「事前」捜査』では3つのセクターに分けて整理しました。政府と民間と市民の3つに分けて、このバランスで国の安定が保たれます。政府のパワーがほかの2つに比べて低くなると、必ず国は乱れる。このパワーバランスのどれがどの程度適切なのかはその国柄によって変わります。

私は、今の民主主義の形態だと単純に市民の発言力が大きくなると、国家の基盤は揺らぎ不安定化すると思っています。市民の意見が強まるということは、公正な議論、中立な立場でのやり取りが頻繁に行われるようになって、むしろいいことであると思われるかもしれません。

しかしおそらくそうはならないことを証明したのが、先ほど言いましたFacebook上で実際に起きているフェイクニュースやデマの伝播のような気がしています。自由に発言できるようになればなるほど国は不安定化して、逆に独裁者が出やすくなる。

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