「偽ニュース」への抜本的な対策はありうるか SNSで公然と行われている「情報操作」の現実

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一田:フェイクニュースという言葉を最近見るようになりましたが、実は日本以外の国では、フェイクニュースやネット世論操作は「軍事問題」として認識されています。私の本は基本的に誰でもアクセスができるオープンソースの情報を基に書いています。でもオープンソースの情報で、日本国内に関する調査はほぼありません。

津田:メディア・コンサルタントの小口日出彦氏の『情報参謀』とか社会学者・西田亮介氏の『メディアと自民党』などを読めばわかりますが、現在の自民党の強さは、ネットを含めたメディア戦略をかなり組織的にやっている部分が大きい。具体的に自分たちの政策についてネットユーザーたちに反論させることを指示していますから、あれをネットを使った「世論操作」と見ることもできるでしょう。

先に話題に出ました「機能的識字能力」はフェイクニュースを考えるうえで大事な指摘です。ここの問題意識に行き着いたきっかけはどのようなことですか。

決め手になる対抗策は現状はない

津田大介(つだ だいすけ)/ 1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ポリタス編集長。早稲田大学文学学術院教授。テレ朝チャンネル2「津田大介日本にプラス」キャスターほか、ラジオのナビゲーターも務める(撮影:大澤誠)

一田:やはりニュースサイトとかに記事が載ったときにつくコメントがあまりにも、文章を正確に理解して読まれていないことがあります。「本当にこの人たちは何も考えずに書いているのか」と思わざるをえませんでした。

津田:実際、見出しだけを見て判断するという研究結果もあります。一田さんは簡潔に現状をまとめています。「ネット世論操作は社会変化を反映している。ネットの普及がもたらした社会変化の1つであり、民主主義の終焉であり、低い文章読解力がもたらした弊害でもある。フェイクニュースは、軍事、社会、民主主義の危機を象徴していて、ファクトチェックとか、事業者の管理を厳しくするとかで解決できる話ではない」というところですね。

一田:ファクトチェックやプラットフォーム事業者の管理は絶対に必要です。ただし、決め手になる解決策ではありません。

津田:ほかにも一田さんはフェイクニュースの問題を「最強の非対称だ」とおっしゃっています。ニュースの発信側と受信側の力関係が非対称なので、対策はやらないよりかやったほうがまし、だけど、あまりにもニュースを悪用しようとする人たちの影響力や能力が大きすぎるので、焼け石に水にしかならないと……。

一田 そうです。あとは泥仕合になるだけです。

津田:今までのフェイクニュースの問題はTwitterやFacebookで拡散しました。これらはある意味では公開情報なので外部から検証できる。これからは海外でよく使われている(中身が外部からわからないSNSアプリ)ワッツアップの問題が大きくなる。ワッツアップは検閲できないような強力な暗号を使っていて、外部から見られない。しかも強力なグループができてしまう。ここでデマが流れる。昔チェーンメールの問題がありましたけど、それの「超強力版」というべきものです。

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