スーパーで働きつつ寿司屋を開いた男の達観 猛烈な修業を経て生家の家業にたどり着いた

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そして2018年7月、働いていたスーパーが閉店になってしまった。

「じゃあもうすし屋一本でやっていこうと思いました。オープンを18時に変更しました。仕込みにも時間をかけられるようになって、より精度が高くなりました」

口コミで客も増え、すし屋一本でも営業していくことができるようになった。

そしてあっと言う間に、開店して1年が経った。

いいと思った店はみんなに紹介してほしい

開店から3カ月ほどで閉店してしまう飲食店は少なくない。

「この1年はとても面白い1年でした。でもここからが本当の勝負だと思います。

とにかくここで最低5年はお店をやろうと思ってます。5年頑張って、移転の費用も稼げないなら、それまでかなとも思います。軌道に乗ったらここを拡張するかもしれないし、新しいお店に移転するかもしれません。頑張って費用を貯められるだけの実力をつけたいですね」

近藤さんは笑顔で言った。

コースの最後は、アマダイの味噌漬けのあぶりのおすしだった。店内で豪快にバーナーの炎であぶる。香ばしい臭いが店内に広がる。

コースの最後に出されるアマダイの味噌漬け(筆者撮影)

このおすしは近藤さんのオリジナルメニューだという。

「カラスミを味噌漬けにするときの味噌が余ったんです。それでどうしようかなと思って。昆布締めと同じ発想でいけるんじゃないかな?と思いつきました」

昆布締めは、食材に昆布を巻くことで水分が昆布に吸収されて身が締まる、それと同時に昆布の旨味が食材に移り美味しくなるという原理だ。

味噌には塩分が入っているので味噌漬けにすると浸透圧で水分が抜ける。そして水分が抜けたところに味噌の旨味が入っていく。味噌の旨味が入ったアマダイを炙ることで、さらに旨味も出て風味も出る。

頬張ると、味噌と魚の香りが口中いっぱいに広がった。噛めば身からグッと味が出る。なんとも美味い。

こういう隠れ家的なお店は、逆に人に紹介したくなくなる。自分だけの店にして、とっておきの接客のときなどに使いたい。

そう言うと、近藤さんは笑いながら

「人に紹介したくないと思われているお店が、そのまま潰れてしまうことって実はよくあるんですよ。いいと思った店はみんなに紹介してください。それがいちばんです」

と語った。

たしかに潰れてしまっては元も子もない。皆さんももし自分だけの美味しいお店を知っていたら、そっと教えてほしい。

村田 らむ ライター、漫画家、カメラマン、イラストレーター

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むらた らむ / Ramu Murata

1972年生まれ。キャリアは20年超。ホームレスやゴミ屋敷、新興宗教組織、富士の樹海などへの潜入取材を得意としている。著書に『ホームレス大博覧会』(鹿砦社)、『ホームレス大図鑑』(竹書房)など。

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