年金の検証、またも安倍内閣の鬼門になるか 今こそ給付減、負担増の心地よくない政策を

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所得代替率が50%を割るか割らないかは、時の政権の評判を左右する。現行の法律では、所得代替率が50%を割るという財政検証の結果が出れば、制度改正を行うことを念頭に給付と負担のあり方を見直さなければならないとされているからである。

50%を割るという結果が出ると、まず今の年金の仕組みのままだと「100年安心」でないことが判明してしまう。かつ、時の政権はそれをどう制度改正することによって「100年安心」を取り戻すのかを示せないと、国民の年金不信や政権の年金政策批判を助長する。もしそんな結果を発表した直後に、選挙など行おうものなら、与党は勝てないかもしれない。

実は、2009年の財政検証では、そんな思惑が見え隠れしていた。時は、麻生太郎政権。2007年の参議院選挙以降、衆参ねじれ状態となっていた。当時の衆議院議員の任期満了が2009年9月10日に迫る中、5年に1度の年金の財政検証を行わなければならなかった。

結局、麻生内閣は、どんな対応をしたか。結論から言うと、検証での経済前提を楽観的なものにしたうえで、所得代替率が50%を維持できるような給付が出せて、かつ100年後でも年金積立金は枯渇しないから、問題なし。以上、終了。というような形で、財政検証の話題に注目が集まらないように公表したのだ。

もちろん、衆参ねじれ状態だったから、制度改正するために必要な法律の改正をしたくとも国会で成立しないし、ましてや今の年金の仕組みのままだと「100年安心」でないことが判明してしまうような検証結果を出そうものなら、麻生内閣は野党から年金問題で猛攻撃を受けることが容易に想像できた。

政権転落前の楽観的すぎたシナリオ

そんな背景もあって、結局2009年2月に公表された財政検証の結果は、50%を割るような結果など出せるはずもなく、メインシナリオである「基本ケース」で、将来的な所得代替率は50.1%となるという結果を公表して終わった。みごとにぎりぎり50%を割らないといわんばかりの値だった。その結果を導出した経済前提では、当時リーマン・ショックに端を発した世界金融危機の痛手から立ち直っていない状況の中で、世界経済が早期に回復するという見通しの下に、公的年金積立金の中長期的な予想運用利回りを、2004年の推計で想定した3.2%から4.1%に上方修正するなど、専門家から楽観的と評される前提を置いた。

その後、年金の財政検証に基づいた制度改正に着手することなく、民主党に政権交代した。

時は流れて、第2次安倍内閣になって迎えた2014年。5年に1度財政検証をして、必要に応じて制度改正を行うべきところを、2009年に事実上「1回休み」していたから、制度改正していない10年分のツケが2014年の財政検証の結果に表れた。2004年に導入されたマクロ経済スライドの仕組みも、1度も発動されずに2014年を迎えていた。

2012年12月の衆議院選挙、2013年7月の参議院選挙を経て、衆参両院ともに安定多数を握る与党に支えられた安倍内閣の下、当面、国政選挙がない状況で、2014年の財政検証を行うことになった。さすがに、何も取り繕う必要がないと思われた。厚生労働省の審議会でも、入念な準備をして財政検証に臨んだ。

しかし、本連載の拙稿「年金は、本当に『100年安心』なのか」に記したとおり、2014年でも、財政検証の結果を導出する経済前提を楽観的にせざるをえなかった。その様相を大まかに一言でいえば、「アベノミクス」で経済成長率を高めようとしているさなか、それを否定するような経済前提を検証で用いるのは都合が悪い、という感じである。アベノミクスの成果で高まると期待される経済成長率のトレンドが日本経済で今後も続くような経済前提にして、アベノミクスを間接的に肯定するよう「忖度」した結果、専門家から前提が楽観的と評されたともいえる。

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