大久保:これからの日本は、20歳ぐらいから仕事をするようになって、健康寿命を考えると80歳ぐらいまで働く社会になります。一方、企業の寿命は中原さんが24年とおっしゃいましたが、どんどん短くなって20年を切るのではないかと思っています。
企業の寿命が20年で、個人の働く期間が60年ということは、もうすでに3倍違うし、1つの専門性をクリアするのに10年かかったものが仮に「3年でできる」ようになれば、60年で20個のプロの領域を身に付けることができるわけです。
そうなったときに、人間とAIとが良好なパートナーシップを組むことによって、何ができるのか、どういう社会を築くことができるかということを考え、情報を発信していきたいと私たちは思っています。これからの社会は、考えようによっては、とても豊かで、楽しい社会になるはずです。
ただ、「60年間の時間があるんですよ」という話をすると、9割の人が嫌な顔をします。「そんなに長く働きたくないです」「そこまで働かなければならないのか」という反応なんですね。それは、若い人たちも同じです。
現状に不安でも、行動が少ない日本人の問題点
中原:日本の若者の安定志向というか、変化を好まない姿勢というのは、今も昔も変わっていませんよね。大学生の就職企業人気ランキングで、上位に並ぶ企業名は例外なく、安定した大手企業で占められています。世界の経済構造や日本企業の働き方が大きく変わろうとしているというのに、大企業に就職すれば将来は安泰だと思っている学生が依然として多いのは日本全体で危機意識が足りない証左なのかもしれませんね。
大久保:いろいろなデータが若者の安定志向を示していますから、それはそのとおりでしょう。しかし、それをマイナスと捉えるだけではなく、別の見方もできるわけですね。
たとえば、昇進することに関してネガティブということは、従来の価値観に対して関心を失い、否定する意識の表れと見ることができます。私は、若い人には思いっきり既存の価値観を否定してもらって結構だと考えていて、逆に、若い世代が現状に対して全面的に肯定的だったりすると不安になりますね(笑)。
ただ、若干心配しているのは、現状に対する不安が行動を促さないという国民性の部分です。若い人でも、不安だけど仕方ないよね、で終わってしまうんですね。いま、若い人の多くは老後が不安だと言っていますが、では、高齢になってからの自分の生活をよくするために、何かアクティブな行動を起こすのかというと、起こさないんですね。
日本人のほとんどが、何もしないか、守りの行動に入るだけです。それだとあまり明るい未来が描けません。守りの行動に入るということは、ただ縮小していくだけ、要するに不安だから生活レベルを落とします、ということなんですね。