大久保:でも、政治家は国民が選んでいるわけですからね(笑)。政治の質は国民が決めるものですから。
中原:アメリカでは今、民主主義的な価値観は日本人が思っている以上に衰退してきています。驚くべきことに、アメリカ人の6人に1人が軍政を民主主義よりもベターな統治方法であると考えていて、1930年代生まれのアメリカ人の7割超が民主主義を必要不可欠だと考えている一方で、1980年代生まれのアメリカ人でそのように考えている人はたったの3割しかいないといいます。アメリカほど深刻ではないものの、ヨーロッパ各国でも極右政党が躍進し、民主主義に対する信頼感が大きく低下しています。
2008年のリーマンショックに代表される世界的な経済危機を経て、アメリカやヨーロッパでは格差拡大が大きな社会問題となっています。そのなかで、トランプ政権が大衆の不満や憎悪をあおって自らへの支持を求めるというポピュリズム的な手法を多用しているのを見ると、アメリカはすでに衆愚政治の入り口に足を踏み入れているのではないかと感じています。
日本の政治も、先送り体質を改めなければこうした民主主義の危機は決して対岸の火事とは言えなくなると思います。
課題がわかっていても、実現が難しい日本社会
大久保:それは言葉を換えて言えば、要するにバトンタッチがうまくいってないということだと思います。だから高齢者から若い世代へという、バトンタッチがうまく機能している社会では、そうした問題は解消できるでしょう。
未来のことを若い世代で考えようという声は何度も起こっているのですが、実現するのは容易ではありません。小泉政権の時代、2003年から2004年にかけて、「日本の2030年の未来予測(日本21世紀ビジョン)」という政府のプロジェクトチームがつくられ、未来を見据えて日本が取り組むべき課題について議論したことがありました。
「2030年の時代にリーダーシップをとっている世代にやってもらうべきだ」ということで、若い人が中心となってさまざまな提言を行いました。私もメンバーに呼んでいただいたのですが、その時に行った未来予測は、いま読み直しても大変に的確で、おそらく2030年はきっとそうなっていると言える内容です。問題は、その時に取り組まなければと課題にしていたことが、あまり実現できていないことです。
ですから、AIの問題についても、取り組むべき課題が何かはわかっていながら、そのまま何もしない、となることは十分に起こりうる話だと思います。