大久保:今、世界で最先端の教育を行っているといわれる大学は、「常時教育」が当たり前です。大学とはつねにつながっていて、ベッドの中からでも授業に参加し、発言をするといったことが当然のように行われています。この点、日本はテクノロジーを活用した教育がとても遅れています。
AIで「プロになるまでの時間」を圧倒的に短くできる
大久保:そもそも先生が生徒に教えるという学習のあり方自体が遅れたものです。AIがポジティブに貢献してくれる大事な要素の1つというのは、AIを活用することによって、1つの専門性を持ったプロとして力を身に付ける時間を圧倒的に短くできることです。
これまでは一人前になるのに10年かかると言われていて、たとえば、すし職人の場合、掃除から始めてすしを握るのに10年かかっていましたが、AI社会ではそんな時間は必要ありません。AIがおいしいすしの握り方について、最適な方法で教えてくれるようになるので、おいしいすしを握れるようになるまでの時間というのは、だいぶ短くなるはずです。
同じことはほかの領域でも言えるわけで、そうすると、今まで10年かかって一人前と言われていたことが、短い時間でプロの領域にまで達するようになる。それがうまく生かされる社会をつくっていくというのが、「2030年のレポート」の中でいちばんポジティブに述べられていることなんです。
中原:実は私も2014年に『2025年の世界予測』という本を出版させていただいたのですが、そのなかで、今の日本の社会システムを維持するために定年は75歳に延ばさないと帳尻が合わないだろうと申し上げました。定年を75歳、すなわち高齢者を75歳以上にすれば、2040年になっても2060年になっても2014年と比べて高齢化率は上がらないので、消費税を30%に引き上げなければならないという議論もなくなるはずです。
東京商工リサーチによれば、日本では2017年に8405社が倒産し、会社の平均寿命は約24年にまで縮まってきているといいます。大学を卒業して75歳まで働くとすれば、会社員生活は50年余りになります。会社の平均寿命がその半分以下に落ち込んでいることから、50年余りの会社員生活は1種類の仕事をするには長すぎるという状況になっているのです。
ですから、そういった意味では大久保さんが言われているように、AIやITの力によってスキルを短期間で身に付けるというのは、非常に有意義なことなのではないかなと考えています。