日本人が山ほど残業を強いられる2つの根因 底なし残業なしに成立しない日本人の働き方

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なぜ、日本人は長時間労働をしているのでしょうか? その背景には2つの「無限」がありました(写真:iStock/FangXiaNuo)
超高齢化社会を迎え、あらゆる仕組みをアップデートする必要に迫られている日本。女性やシニア、外国人をはじめとした多様な人々の力が鍵となる中、それを拒む最大の障壁が、日本独特の働き方「残業」です。
一体なぜ、日本人は長時間労働をしているのか?  2万人を超える調査データを分析し、あらゆる角度から徹底的に残業の実態を解明したパーソル総合研究所と立教大学・中原淳の共同研究「希望の残業学」プロジェクトを講義形式に書籍化した「残業学 明日からどう働くか、どう働いてもらうのか? 」より、底なし残業の裏にある2つの「無限」について解説します。

全体平均の残業は減ったがフルタイム従業員は高止まり

1980年代後半からは、国際的な批判の対象となったこともあり、日本全体の平均労働時間は徐々に減少してきました。1990年代、バブル崩壊後の日本企業では、雇用している従業員に大きな変動が起こります。

この時期、日本企業は長引く不況を背景に、低賃金で育成コストのかからない、アルバイト・パートという雇用形態を拡充していきました。そこに、不況によって夫だけの収入では家計が苦しくなってきた主婦や、新しく生まれてきたカテゴリであるフリーターといった労働者が参入します。

この人たちの多くは時給制賃金で、労働時間の短いシフト制などで働いているので、1人あたりの労働時間は少なくなり、「全体平均」を押し下げていったのです。一方で、「フルタイム」の雇用者の平均残業時間は長期的にほぼ同水準で高止まりし、ほとんど変わっていません。

他の分析(※)でも、日本の労働時間は1980年代後期の「時短」運動を経ても変わっていないことが統計的に示されています。

<※参考文献>
山本勲、黒田祥子『労働時間の経済分析 超高齢社会の働き方を展望する』日本経済新聞出版社、2014年 
黒田祥子「日本人の労働時間 時短政策導入前とその20年後の比較を中心に」RIETI PolicyDiscussion Paper Series 10-P-002、2010年

つまり、1990年代から現在にかけて起きた労働時間の変化は、「働き方の全体的変化」ではなく、「長く働く人(=正社員)」と「短く働く人(=パートタイム労働者)」の「二極化」現象であると解釈できます。

両者の平均をとっているので、表面上は減ったように見えるのです。この間、日本以外のほとんどの先進国は、さまざまな規制や施策によって労働時間を減らしてきました。

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