「当事者研究は、精神保健福祉の世界でなくても生かせるんだということを、家族会議の場で気づかせてくれたのも幾望でした。最初は学校に行きたくないという気持ちを、研究したんですよね。でも1年でこんなにも自分の気持ちを研究できるようになったのは驚きです。自分の中にいろいろな気持ちがある、それがあっていいということに自分で気づくなんて、子どもはやっぱりすごいなあと思うんです」(梓さん)
健也さんが単身赴任になって気づいた、として幾望くんが挙げたのは、「パパが手伝ってくれてた朝の支度を自分でできるようになったこと」「一人で渡れなかった大きな道を、中学生のお兄さんにくっついて渡ったら渡れるようになったこと」「遅刻しそうな時、学校までのショートカットを見つけて行けるようになったこと」「パパが洗ってたお風呂掃除を、僕ができるようになったこと」だった。
幾望くんの今の気持ちは?
これは全部、「がんばろうくん」が「がんばってみよう、チャレジしてみよう」と声をかけてくれたからできたことだと幾望くんは言う。寂しさを乗り越えて、これまで健也さんが手伝ってくれていたことを、一人でやらなくちゃいけない。この7カ月で幾望くんはずいぶん成長した。
うれしそうにノートを閉じる幾望くんに聞いてみた。「こうやって自分の気持ちを、パパとママといっちゃんに聞いてもらったらどんな気持ちになる?」と。
「今もいつも心の中にはニコニコくんと悲しいくんが半分ずつ戦ってるよ。でも、知ってもらえたらうれしい。だから家族がそろったら言うよ。それでわかってもらえたら、うん、考えたかいがあったなって思う」

研究をしても家族会議をしても、幾望くんがいちばん求めている「パパが札幌市に戻ってきてくれること」はすぐには叶わない。それでも、「心の中にはパパみたいに応援してくれる人もいる。だから、僕はどこに行っても、大丈夫だよ」と言う。
この先、内田家がどんな選択をしていくかは、引き続き、家族会議を続けていって決まることだろう。それでも、ここまで自分の気持ちを共有してくれているなら、きっとどんな選択も「間違い」にはならない、それだけは確かだと思った。
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