中国がGDP世界1位を狙うたった1つの理由 「統計データ」から読み解く国際情勢の現状

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ここで、過去と現在のGDPの成長率ランキングを見てみよう。1996~2006年の10年間では中国は世界7位だったが、2006~2016年の10年間では成長率は少し鈍化したものの世界4位まで上がってきている。対して、アメリカはいずれもランク外だ。

実は、アメリカが中国の覇権を抑えようとする背景にはもう1つ理由がある。 

 

アフリカ諸国を味方につけようとする中国

中国は現在、経済だけでなく軍事的にも一帯一路政策を進めており、アフリカ諸国を手中に収めようとしている。具体的には、アフリカ諸国に多額の援助をすることで、仲間にしようとしているのだ。アメリカの援助を好まないアフリカ諸国にとっては、これは歓迎すべき事態である。

なぜ、アフリカ諸国はアメリカの援助を嫌うのか。それは、アメリカは援助する代わりに、アフリカ諸国に対して人権問題の是正を求めるからである。アフリカ諸国には独裁政権の国が多く、人権を蔑(ないがし)ろにしている国が多いが、アメリカは自国の議会を経て国家予算から援助する以上、議会や国民が人権問題を無視しないのである。

その点中国は、自国がそもそも独裁国家で人権問題を抱えているから、アフリカ諸国のそれを問題にすることはない。それゆえ、アフリカ諸国はアメリカのお金よりも中国のお金を入れたがるのだ。

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中国がアフリカ諸国を味方につけたら、アメリカは国連や国際会議の運営においてかなり不都合になる。なぜなら、国連は1国1票を原則としており、仮に国連でアメリカの議案政策に反対する案などが出されれば、アフリカ諸国が大量の票を投じて、大変なことになることもありうる。

普段から各国のニュースを見て、さらには数字を見て、いろんな場所に行き、いろんな人に会う。そうして訓練を積み重ねていくことによって、データから世界の情勢をありありと読み取ることができる。逆に言えば、ある程度のベースの知識がないと数字の本当の意味するところを読み取れないのだ。

加えて、定点観測することも欠かせないだろう。外貨準備高もGDPのランキングも、あるいはGDPの成長率も、ある一時点の数字だけを見ていたら、その背後に起こっている事態を読み損ねてしまう。そうではなく、毎年同じデータを見続けること。来年、これらの数字がどうなっているのかを確認すること。これが必要である。

繰り返すが、私たちは関心がないとものが見えない生き物だ。しかし、関心があれば、いろんな物事がすっきりクリアに見えてくる。本書は、そうした「発見力」を鍛えるのにうってつけの1冊なのだ。

小宮 一慶 経営コンサルタント

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こみやかずよし / Kazuyoshi Komiya

小宮コンサルタンツ代表取締役CEO。大企業から中小企業まで、企業規模や業種を問わず、幅広く経営コンサルティング活動を行う一方、講演や新聞・雑誌の執筆、テレビ出演も行う。著書に『「なれる最高の自分」になる方法』『ビジネスマンのための「習慣力」養成講座』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)、『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座』(日本経済新聞出版社)、『株式投資で勝つための指標が1冊でわかる本』(PHPビジネス新書)など。

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