シャープ、テレビ「爆安販売」で直面した誤算 中国でブランド価値低下、戦略転換迫られる

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これを受け、9月22日には戴社長自らが中国事業のCEOに就任にして陣頭指揮を取る態勢に変更。同27日には、中国・深センでメディアやディーラーを集めた会を開き、高付加価値化による中国市場再構築の決意を表明。同時に、高価格帯のテレビとして、8K対応液晶テレビと、インターネットに接続できるAIスマートテレビという2種類の新シリーズを発表した。

その反面、格安販売してきた従来モデルは意図的に販売を抑制する。これが、2018年度の売上高下方修正の一因だ。

これまで派手なセールなどでテレビを全面的に押し出していた「富連網」のサイト上も大きく変化。「ヘルシオ」ブランドの電子レンジや空気清浄機などの家電製品を中心とした売り出し方に変更し、液晶テレビのページにはわずか11製品しか掲載されておらず、寂しい印象だった。今後は、「富連網を一代理店として、販売網を再構築していく」(戴社長)という。

安売りイメージをどう払拭するか

だが、一度安売りのイメージがついたブランドを磨き直すのは容易ではない。シャープは2017年10月、どの市場よりも早く中国で、日本円にして100万円超の8K対応液晶テレビを発売したが、「売れ行きについては言及できない」(会社側)という。ソニーは、かつて平面ブラウン管テレビで一世を風靡したものの、薄利多売路線に走り2004年以来テレビ事業の赤字が続いた。2012年に台数を追わない高付加価値戦略に切り替えたが、営業黒字化するのにさらに2年を費やした。

かつてテレビを中心に販売していた「富連網」のECサイトだが、11月下旬に閲覧した際には、電子レンジなどの白物家電を中心とした見せ方に変わっていた(画像:富連網のウェブサイトをキャプチャ)

シャープの場合はソニーと異なり、海外ではブランドとしての認知が進んでいるとは言いがたい。さらに同社は、今年栃木のテレビ組み立て工場や大阪の冷蔵庫工場を閉鎖し、海外に移管すると発表するなど、鴻海の海外拠点を利用した生産体制に移行している。日本の家電に価値を置く中国の消費者が、シャープをどう評価するかも未知数だ。

9月27日に中国・深センで開催された記者会見で、戴社長はシャープをゴルフ選手のタイガー・ウッズ氏になぞらえてこう語った。「彼(ウッズ選手)はさまざまな失敗や挫折を経験し、刑務所にも行った。しかし、苦しい時代を乗り越えて5年ぶりに全米プロゴルフ選手権で優勝した。シャープも5年間苦しい時期があったが、2016年度に営業黒字化し、2017年には東証2部から1部に復帰した。これは日本の奇跡だ」。

確かに、シャープの業績の急回復ぶりは目覚ましいものがあるが、「天虎計画」のほか、流通コストの削減や部材の共同調達など、鴻海のバックアップによるところが大きい。ただ、ブランド価値を高めるにはシャープ自身の戦略が必要だ。電機業界の“タイガー・ウッズ”になるためには、もう一段高いハードルを越えなければならない。

印南 志帆 東洋経済 記者

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いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者、東洋経済オンライン編集部、電機、ゲーム業界担当記者などを経て、現在は『週刊東洋経済』や東洋経済オンラインの編集を担当。過去に手がけた特集に「会社とジェンダー」「ソニー 掛け算の経営」「EV産業革命」などがある。保育・介護業界の担当記者。大学時代に日本古代史を研究していたことから歴史は大好物。1児の親。

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