上に立つ者が胸に刻むべき「16文字」の漢字 実績や報酬は国民や社員の汗の賜物である

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だが、経済成長が順調に続くことは、別の隘路(あいろ)に近づくことを意味する。いかなる政治体制の国であっても、経済が発展し、国民の暮らしが一定の水準に達した段階で、しだいに国民の間には権利意識が芽生える。

中国国民も、また、やがて自分たちが国の主であることに気づき始めるはずだ。そのとき、国民の多くが自分たちは不当に虐げられていると思えば、中国共産党は退場を迫られることになる。

習近平と中央政府にとって、国民が権利に目覚め始めたときに採りうる手段は、党と中央政府に集中している権力を漸次国民に移譲していくことである。拙著『習近平の大問題』でも述べていることだが、中国は国民の権利意識の高まりとともに、中国的「民主化」に向かって一歩ずつ足を踏み出すはずだ。

これも歴史の必然であり、人類社会の理である。

民の膏、民の脂とは自国民だけではない

世界は、すでにアメリカと中国という2つの大国を極に動き始めている。アメリカと中国の動きは、大なり小なり世界各国に影響を及ぼす。世界をリードする立場の両国の動きは、もはや自国だけの問題ではない。

およそひとつの国が世界に影響力を及ぼすとき、その国の指導者は他国の国民に対しても無責任ではいられない。企業経営でいえば、トップの決断は社員のみならず、すべてのステークホルダーに対する責任を伴う。民の膏、民の脂とは自国民のことだけをいうのではないのだ。

イラク戦争後のイラク国民に、アメリカの責任がないとは誰も考えないはずだ。サウジアラビアを支援し、イスラエルを擁護してきたアメリカには、大なり小なり中東の諸国民に対する責任がある。アメリカは、いまさら自国第一主義などと言える立場ではないのだ。

一方、習近平の「一帯一路」も、中国のみならず一帯一路の道筋にある周辺国の国民に対して責任を持つことを意味する。戦前の日本が満州国経営でつまずいた理由も、畢竟(ひっきょう)、現地の民を軽視し、自国の利益のみを追い求めたことに尽きる。

勢力圏を広げるということは、搾取や収奪による利益の獲得ではなく、むしろ援助や救済等による支出、あるいは投資を意味する。そして、その後に発展の共有があるのだ。つまり、勢力圏を広げるということは、責任の範囲と大きさを広げることであって、指導者の力の誇示ではないのである。

当然のことながら、トランプ大統領と習近平主席には、その認識と覚悟が求められる。もしも不幸にして、世界を動かす2極の指導者にその認識がなければ、民が声を上げるしかない。民の声が大きくなれば、大国の指導者といえども、これを斥け、虐げることは不可能だ。

アメリカの民の声は、一足早く中間選挙の結果という形で表れている。11月6日(アメリカ現地時間)のアメリカ中間選挙(上院議員の一部、下院議員の全員を対象とする選挙)では、上院は共和党が、下院は民主党がそれぞれ多数派を占めるという結果になった。この結果は大方の予想どおりである。

下院で民主党が多数派になったことで、トランプ政権は今後、厳しい議会運営を迫られるという見通しがある。おそらく民主党は、多数派となった下院でトランプ大統領の「ロシアゲート」疑惑や、未公開のままとなっている過去の納税記録などに対する追及を一段と強めるだろう。

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