「靖国が台なしにした日本のソフトパワー」 ハーバード大学教授 ジョセフ・S・ナイ

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ハーバード大学のジョセフ・S・ナイ教授は二つの顔を持つ。ソフトパワーという国際分析上の新たな概念を生み出した国際政治学者としての顔はあまりにも有名。だが、もう一つ、忘れてはならないのがクリントン政権で国防次官補を務め、「ナイ・イニシアティブ」と呼ばれる「東アジア戦略報告」を作成した軍事戦略家としての顔である。

 このほど、ナイ教授は、ブッシュ政権の前国務副長官リチャード・アーミテージ氏と共同して、「Getting Asia Right Through 2020」(2020年に向けてアジアを正しく理解する)と題する論文をまとめた。変貌する日本、中国、北朝鮮……。これらアジア諸国に対して米国はどう直面するのか。今回の「世界の視点」は特別版として、ナイ教授にインタビューを行った。(聞き手:ピーター・エニス〈本誌特約記者、在NY〉)


 普天間問題がこれほど長引くとは思わなかった

 --日本は国家の安全保障に関するインフラをさらに高度化しようとしています。防衛庁を防衛省へと昇格させ、首相官邸でも内部機能の強化を図り、本格的な情報収集能力を整備しつつあります。これはよい方向なのでしょうか。

 それらはすべて得策だと思います。防衛庁は省へと昇格したことによって、自らの見解を内閣に反映させやすくなる。また、日本版の国家安全保障会議を作ろうという動きも重要です。省庁間の調整をよりスムーズに図ることができるようになるからです。

 さらに、首相官邸の強化も見逃せない。日本の制度は長い間、極めて「フラットな」構造を採っていて、国会の力が強く、首相の力は英国の場合などと比べて弱かった。首相官邸の力を強めることで、意志決定がより効果的になるはずです。

 --昨年、日本では核兵器について相当議論がなされました。このことをどう見ますか。

 日本は民主国家ですから、核兵器の問題を議論する権利はある。でも、核兵器の開発は行わないという長年の政策を変更するのは大きな誤りです。もし日本が核兵器を開発するようなことになれば、北東アジア地域の不安定化につながりかねないからです。

 --靖国神社は日本と近隣諸国との間に横たわる大きな問題です。

 安倍首相は靖国問題を巧みに処理して成功していると思う。しかし、靖国問題を靖国神社とそれに付随する問題だけに限定してはいけない。靖国問題とは、日本がアジア諸国、特に中国および韓国と和解するために、歴史に折り合いをつけなければならないという、より大きな懸案事項の象徴なのですから。

 日本には、北東アジア地域で「ソフトパワー」を発揮する非常に大きな潜在力があります。日本の大衆文化は非常に魅力あるものとして、この地域全体で受け入れられている。

 ところが、歴代首相が靖国神社参拝を繰り返してきたことが象徴するように、歴史問題で折り合いをつけることができないことによって、この「ソフトパワー」の潜在力がすべて台なしにされているのです。

 この地域の人々は、日本の文化を大歓迎しているにもかかわらず、1930年代を振り返ることを余儀なくされている。つまり、日本は靖国問題によって、自らを傷つけているのです。

 --普天間基地問題をどう考えますか。日米両政府が普天間の海兵隊基地を閉鎖することで合意に達してから、もう10年が経つというのに、進展が見られません。

 率直に言って、進展にこんなに長い時間がかかったことに愕然とする思いです。米軍が沖縄に存在していることが、沖縄の人々にとっては確かに大きな圧力となっています。私たちはこの圧力を軽減する方法を見いださなければならない。これは長期的に見た日米同盟の強化維持にとって極めて重要です。

 --海兵隊と空軍は、なぜ、嘉手納の空軍基地を共同使用することで合意できないのですか。

 陸上での協力については重要な問題があります。ヘリコプターと飛行機が1カ所に共存することになるが、このことに対する懸念を簡単に片付けてしまうべきではない。また、沖縄の政治は非常に複雑だということも忘れてはならない。それでも普天間問題は、今に至るまでにもっと進展させるべきでした。

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