「靖国が台なしにした日本のソフトパワー」 ハーバード大学教授 ジョセフ・S・ナイ

印刷
A
A

北朝鮮の核問題は半島統一という形で決着する

 --次に中国についてお聞きします。米国にとって中国は脅威なのでしょうか。それとも協力できる国なのでしょうか。

 適切に対処すれば、中国は脅威とはならないでしょう。それでも、中国内部の事情や米国側の不適切な政策が引き金となって中国が脅威に転じる可能性は、つねにあります。

 米国は、クリントン政権においてもブッシュ政権においても、均衡のとれたアプローチをとってきていると思う。中国政策を最も簡潔にうまく表現したのはロバート・ゼーリック前国務副長官です。ゼーリック氏は、中国にグローバルシステムの中で「責任ある利害関係者」であるよう求めた。これは、中国が責任ある態度で力を発揮したいとの意思を示すのに応じて、私たちの側が中国の台頭を受け入れるという意味です。

 --たとえばミサイル防衛やインドおよびベトナムとの関係などを活用して、米国が中国のリスクを「ヘッジ」しようとするのは得策でしょうか。

 私が思うに、ミサイル防衛は主に北朝鮮との関係でとらえるべきです。中国は、米国が導入するどんなミサイル防衛プログラムも無力化することができるはず。つまり米国のミサイル防衛プログラムは、中国にとっては大きな脅威ではない。

 その一方で、ベトナムおよびインドとの良好な関係は中国を取り巻く環境の整備に役立つし、中国が責任ある利害関係者となるのを後押しします。だから、これを中国に対する「封じ込め」政策だととらえて、冷戦時代に米国がソビエト連邦に対して採っていた政策と同じようなものだと考えるのは間違いですよ。

 私たちは中国との関係を深めていこうとしているのであり、中国を封じ込めようとしているのではない。これが私たちから伝えたいメッセージです。

 --北朝鮮問題についてはどうでしょうか。北朝鮮は核兵器を放棄することがありうるでしょうか。

 この問題はいずれ、最終的には朝鮮半島の統一という形で決着がつくと見ています。私たちにできることは、北朝鮮の核兵器計画に制限をかけ、封印してしまうことです。

 しかし、もし北朝鮮が計画を断念したと言ったとしても、私たちにはそれを確認する手段がない。北朝鮮の体制は秘密主義が徹底しているので、なんらかの方法で確認しようとしても難しい。また、もし北朝鮮が実際に核兵器をこちらへ引き渡したとしても、それ以外の核兵器を持っていないとどうやって確認できますか。問題はそこです。

 現状では、北朝鮮を封じ込めるためには6カ国協議が極めて重要です。私は北朝鮮の核兵器保有能力がこれ以上拡大しないことを望んでいます。

 --現在、中国と北朝鮮との関係はどうなっているとお考えですか。

 長年にわたり中国には二つの目標があった。北朝鮮に核兵器を保有させず、かつ、北朝鮮の体制を崩壊させないという目標です。もし北朝鮮の体制が崩壊するような事態となれば、中国と北朝鮮との国境地帯に大問題が生じかねない。中国は北朝鮮による昨年10月の核実験に憤慨した。二つの目標の達成に問題が生じたと判断したのだと思う。そこで中国としては北朝鮮への圧力を高めてきたのでしょう。

 つまり、北朝鮮の核保有能力に対して私たちが今後どの程度うまく制限をかけることができるかは、中国の出方次第ということになります。

 --ところで、アーミテージ氏と共同で作成した論文、「Getting Asia Right Through 2020」では、米国がアジアにおいて「正しくない」対応をしている可能性を示唆しています。何を最も懸念しているのですか。

 アジアの再生と、今後も続くアジアの台頭は、21世紀に予想される大きな変動の一つです。しかしこの6年間、米国は中東問題に集中しており、アジアの問題に時間を十分に割いてきませんでした。アーミテージ氏と私が懸念を抱いたのは、まさにこの点です。

 --表面的に見るとあなた方2人はまったく異質です。アーミテージ氏は太い声で話す共和党員、海軍兵学校卒で重量挙げが趣味。これに対してナイ教授は穏やかな話し方をする民主党員、ローズ奨学生であり、ハーバードで博士号を取得した。お2人がどうしてウマが合うのかについては、大いに好奇心をそそられます。

 何をしなければならないかについて、私たちの考え方は非常に似ています。私たちが初めて会ったのは94年ころで、当時私は国防総省にいました。私たちは2人とも、日米関係が軽視されていると考えていた。

 この時代に一般的だった考え方は、「冷戦は終わった。日本は勝者となり、日本との経済競争が始まった」というものでした。私はこのようなとらえ方には反対で、この考え方が米国の対日政策全体を支配しているのではないかと憂慮していました。私は日米関係において、みんながもっと安全保障面に注目するよう働きかけようとしたのです。

 アーミテージ氏は以前からこの課題に取り組んでいました。そこで、私はアーミテージ氏を頼って、経済と安全保障との調和を重視した政策が連邦議会などで支持を集めるよう、努力することにしたのです。今回の論文はアーミテージ氏の発案ですが、その背景には私たちの長年の協力関係があったのです。

ジョセフ・S・ナイ
1937年生まれ。64年、ハーバード大学大学院博士課程修了。政治学博士。カーター政権国務次官代理、クリントン政権国防次官補を歴任。ハーバード大学ケネディ行政大学院学長などを経て、現在同大学特別功労教授。『ソフト・パワー』など著書多数。

政治・経済の人気記事
トピックボードAD
関連記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日野自動車「データ改ざん」による重すぎる代償
日野自動車「データ改ざん」による重すぎる代償
工場が消える!脱炭素が迫る最後の選択
工場が消える!脱炭素が迫る最後の選択
マンションで急増「宅配ロッカー」が突く新課題
マンションで急増「宅配ロッカー」が突く新課題
「研究職600人雇い止め」理化学研究所に走る衝撃
「研究職600人雇い止め」理化学研究所に走る衝撃
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
  • 新刊
  • ランキング
東洋経済education×ICT