翻訳者が語る「ハリポタ・ファンタビ」の魅力 松岡佑子氏が見続けた魔法ワールドの奥深さ

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――「ハリー・ポッター」の書籍で英語を勉強したという人の話をよく聞くのですが、松岡さんはどう思われますか。

「あの物語があまりにも面白いから、どうしても原作を読みたくなって原書を読んだのですが、それも日本語版があったおかげで読めました」といった話をたくさんいただきました。さらに日本語版を読んで、「翻訳家になりたいのですが、どうやったら翻訳家になれるでしょうか」と、質問される方もたくさんいました。その意味では英語に興味を抱かせる道筋を作ったかもしれません。

英語がよくできる人の中には、原書を読んだ後に日本語版を読んだという人もたくさんいると思います。そういった人たちが日本語版を読んでがっかりしなかったというのがとてもうれしくて。むしろ日本語版のほうが面白かったと言ってくださった方がいたぐらいでした。そんなに脚色した覚えはないですが。母国語ですっと入ってくることによって、違った感覚で読めたんでしょう。

それから内容的にはズレがなかったと。まるっきり英語と同じ内容でも、日本語のほうがピンときて面白かったという人もいました。それは翻訳者冥利で、よかったなと思います。

英語が上達するには時間をかけるしかない

――英語が上達するコツはありますか。

やはり時間をかけるしかないですね。

――時間をかけて読むということですか。

読むことは大事です。でも皆さん、大人になってから、英語がしゃべりたいと思ったらまず英会話学校に通うと思います。それでそこそこ上達できますが、それでは文化を学ぶことにはならないし、もっと深く学ぶことは難しい。英語の上達は、やはりかけた時間に比例すると思うんですね。だからたくさん読まなければならないですし、たくさん聞かなければなりません。

松岡 佑子(まつおか ゆうこ)/同時通訳者、翻訳家、静山社社長。1966年国際基督教大学卒、1998年静山社社長に就任。1999年の『ハリー・ポッターと賢者の石』を皮切りに「ハリー・ポッター」シリーズ全7巻の翻訳を手掛ける。『ハリー・ポッターと私に舞い降りた奇跡』などの著書も (撮影:尾形文繁)

静山社でもスタッフに英会話教室を提供しています。入口として英会話は良いと思います。でも、英語で身を立てようと思ったら、会話は導入部にして、たくさん読んで、たくさん聞いて、年月をかけるほかありません。

私は12歳の中学生のときから学んで、いまだに学んでいる状態です。今はオーストラリア人と結婚していますが、いまだに彼に文章を直してもらっていますし、「英語のこの表現を知っている?」と聞かれても知らないことがあります。日本語でも間違って覚えていたり、知らない日本語があったりしますけど、日本語はネイティブですから、英語よりはまだましでしょう。

ワインと同じで、熟成しないと英語にはなりません。幸運な人は、外国に行く機会があったり、両親の関係でそういう環境で育ったり、バイリンガルの両親だったりすると、苦労せずに頭に入ると思います。しかし、普通の日本人が学ぼうと思ったら、たとえ小学校から英語を学んでいても、それだけではものにならないと思います。やっぱり熟成の時間ですね。

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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