日本の政府債務残高は増加を続けている。GDP(国内総生産)比で見ると財政危機に陥ったギリシャなどよりも高い水準にあり、財政破綻を懸念する声が高まるのは理解できる。しかし、政府が財政赤字をどうコントロールすればよいのかという明確なガイドラインは見たことがない。この水準を超えれば財政破綻が起こるとか、この水準までは財政破綻の危険はないといった、単純明瞭な限界線はおそらくそもそも存在しないのではないだろうか。
カルメン・ラインハートとケネス・ロゴフが『国家は破綻する~金融危機の800年』(2011年日経BP刊、原著’This Time Is Different’、2009年刊)で、政府債務残高のGDP(国内総生産)比が90%を超えると経済成長率が急速に低下するという研究成果を公表した。そこで、財政健全化のために増税や歳出削減の必要性を訴える際には、しばしばGDP(国内総生産)比90%という数字が危機的水準として引用されていた。ところが、後に研究に誤りがあったことがわかり大騒ぎになった。
財政健全性を見る明確な基準がない
EU(欧州連合)はマーストリヒト条約で、対GDP比で財政赤字を3%以下、債務残高を60%以下とすることをユーロ参加の条件としているが、3%と60%という数字の明確な根拠は見たことがない。
財政赤字が維持可能であるための条件として、教科書ではドーマー条件が説明されている。ここで維持可能というのは、GDP比で政府債務残高が上昇して行ってしまわない(発散しない)ということだ。さまざまなバージョンがあるが、たとえば、基礎的財政収支(利払い費を除いた収支)が均衡している状態では、名目経済成長率が名目利子率を上回っていれば財政赤字は維持可能だとされる。
しかし、この条件を満たせば、政府債務残高のGDP比は、60%でも90%でも100%でも、どんな水準でも安定することになる。ドーマー条件からGDP比がここを超えたら財政が破綻するというような警戒ラインを示すことはできない。
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