「毎年の国債発行を家計貯蓄で吸収できなくなる」、「国債残高が家計金融資産残高に迫っているので、危機が迫っている」など、家計貯蓄と財政赤字との関係や貯蓄残高と政府債務残高との関係も財政赤字の持続性の議論に使われることが多い。
2013年度に家計貯蓄率がマイナスとなった際には、日本は家計貯蓄で財政赤字が賄えない状況になるという議論が活発になった。日本の家計貯蓄率は、人口が高齢化しているために長期的には低下傾向にある。2014年4月に消費税率が5%から8%に引き上げられるため、直前に駆け込みで家計が消費を増やして、2013年度の家計貯蓄率はマイナス1.0%に落ち込んだ。
貯蓄率がマイナスとなったのには、こうした一時的な要因が加わったためなので、2015度には1.0%、2016年度は2.0%とプラスに回復した。とは言うものの1970年台半ばには20%を超えていたことから見ると著しく低い水準となっている。
家計貯蓄率がマイナスでも企業が資金余剰に
教科書で通常説明されている経済は、家計が資金余剰で、企業や政府が資金不足の状態にあり、家計からの資金を銀行などの金融システムが仲介して企業や政府に流しているという姿をしている。こうした資金の流れをしている経済では、人口の高齢化によって家計貯蓄率が低下し、源泉となる毎年の家計貯蓄が減少していけば、次第に政府が財政赤字を賄う資金を入手することが難しくなってくるはずだ。
ところが現実の日本経済の状況は、教科書が説明している経済の姿とは大きく異なっている。家計の資金余剰は縮小していて、すでに1990年代末あたりから毎年の財政赤字を家計の資金余剰では吸収できなくなっている。
それにも関わらず、財政危機が起こっていないのは、教科書では資金不足で家計から借り入れを行うはずの企業部門が資金余剰になっているからだ。家計貯蓄だけでは不足する国債発行の資金を企業貯蓄が賄っている。
1980年代後半のバブル景気で過剰な借り入れを行った日本の企業は、1990年代末頃になると債務の削減を行うようになり資金余剰の状態となった。2000年代に入ると過剰債務問題はおおむね解決したとみられるが、その後も資金余剰の状態が続いている。家計の貯蓄額や資金余剰と財政赤字の大小という指標も財政危機の警報としては機能していない。
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