「赤の他人」による廃業会社の承継は増えるか 個人が気軽に会社を買う事業承継の「光と影」
「やってみたら」
きっかけは、以前勤めていた会社の社長の、酒席での何気ない一言だった。茨城県水戸市内で鍵・錠前の小売り・交換・修理店「水戸ロックセンター」を夫婦で営む萩原なつ子さんは、2017年5月に「起業」した。起業と言っても、もともと存在した会社を引き継ぐ事業承継。しかも、「赤の他人」の第三者が経営する会社を引き継いだ。
引き継いだ会社は、1967年の創業。前経営者は70歳になるのを目前に引退することを考えていた。一方、萩原さんは勤めていた美容会社を退職し、今後の身の振り方を考えている矢先だった。
「いつかは自分のお店を持ちたい」
「いつかは自分のお店を持ちたいと思っていた。接客が好きで、美容会社ではマネジメントも勉強できた」。萩原さんはそう振り返る。夫の毅彦さんは、建築関連の仕事をしており、手先の器用さが強みだった。「夫婦2人なら何とかやれるんじゃないか」と考え、引き継ぐことを決断した。
前経営者の下での2年間の修業期間を経て、独立した。当初は「スペアキーの鍵作りよりも、修理や鍵開けなどの困りごとの相談が思った以上に多かった」ことに戸惑った。鍵の種類やメーカーのあまりの多さにも尻込みし、一時は辞めようと思ったときもあった。最近はワゴン車だけで営業する業者が増え、トラブルも相次いでいる。「地元で店舗を構えて営業しているのは、信頼の証でもある。お客さんに喜んでもらえた瞬間をみると、後に引けない」(萩原さん)と覚悟を決めた。
事業承継にあたって最大の問題は、買い取り資金だった。萩原さんの場合、買い取り資金である1250万円をどう工面するかが難題だった。「まず、取引している地元金融機関に相談すると、個人が引き継ぐ場合は、お金を貸せないと言われた。別の地元金融機関にもノーと言われた」と苦笑する。最終的に政府系金融機関の日本政策金融公庫から資金を調達した。
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