「赤の他人」による廃業会社の承継は増えるか 個人が気軽に会社を買う事業承継の「光と影」

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現在、東京・三田の慶應義塾大学近くで喫茶店「Flag」を営む飯田将嗣さんも、「赤の他人」から事業を引き継いだ「第三者承継」組だ。

36歳になる飯田さんは、前身の喫茶店「ペナント」の常連客だった。地方から上京し、学生当時から「生活の一部のように」入り浸っていた。ペナントは東京オリンピックの翌年にオープンした老舗で、「マスターは父親代わりのような存在」(飯田さん)だったという。

慶應義塾大近くで喫茶店「Flag」を開業した飯田将嗣さん(記者撮影)

飯田さんは大学卒業後、いったん金融機関に就職したが、前オーナーが高齢になり、ペナントを閉店することを考えていると聞きつけ、居ても立ってもいられなくなった。「儲からないから、やめておけ」。お店を引き継ぐ意思を伝えたが、前オーナーは当初、消極的な反応だったという。最終的には、ペナントはいったん閉店。その後、飯田さんが改めて店舗を大家から借り直す形で、「Flag」は昨年7月にオープンした。

高齢経営者の事業承継をどう進めるか

「備品や壁などの内装はペナント時代そのまま。今考えると甘かったのだが、メニューを何にするかもオープンには間に合わなかった」と飯田さんは苦笑する。ペナント時代の定番メニューを残す一方、飯田さんが飲食店の開業を見据えてすき焼き屋で働いてきたこともあり、「メレンゲとスープのすき焼き」が看板メニューになった。

「将来、お店を持ちたい人は、『早く出したい』と焦るかもしれないが、物件はなかなか出てこない。焦らず、いいタイミングを待っていれば、自分がやりたいストーリー(お店の事業イメージ)に沿ったものが必ず出てくる」と振り返る。都内では昔ながらの喫茶店は貴重な存在になっており、飯田さんは「Flagもお客同士のつながりを大事にするお店にしていきたい」と話す。

「事業承継」は今や日本経済最大の問題だ。経済産業省の推計によると、今後10年のうちに中小企業の経営者の約245万人が70歳を超え、そのうち127万人は後継者が決まっていないという。その結果、2025年までに約650万人の雇用と、GDP(国内総生産)約22兆円が失われるおそれがあると警告している。

こうした危機感を背景に、国は今後10年を集中期間と位置づけ、各都道府県ごとに置かれた「事業引継ぎ支援センター」で後継者のマッチングを行っているほか、事業承継税制を拡充した。東京都が来年1月に事業承継を支援するファンド(都の出資分25億円)を立ち上げるほか、日本税理士連合会がマッチングサイトを立ち上げるなど、官民挙げての取り組みが始まっている。

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