「赤の他人」による廃業会社の承継は増えるか 個人が気軽に会社を買う事業承継の「光と影」

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だが、前述の萩原さんや飯田さんの事例のように、小規模であったり、個人事業だったりする場合の事業承継支援はまだまだ手薄だ。その理由の1つは、企業の規模が小さいゆえに、仲介会社を始めとしたビジネスの採算に乗りにくいからだ。その結果、事業は順調に回っていながら、買い手を見つけられないため廃業に至る「黒字廃業」も少なくなかった。

2011年から、事業の売り手と買い手のマッチングサイト運営を手掛けているトランビは「買い手のリスト作りや候補先探し、交渉など、事業承継には手数がかかる。しかし、従来は(事業承継に悩む)売り手企業が買い手企業を探していたのに、最近は買い手が売り手を探すようになった」(同社)と潮目の変化も感じているようだ。

同社によると、ソフトウェア開発会社が英語塾を買収したり、医療クリニックが高級旅館を買収するなど、ウィンドーショッピングで品定めするように、自社とのシナジーや事業の多角化を考え、売り手企業を物色する買い手企業が珍しくなくなっているという。

決算書が読めない個人も参入

従来、中堅中小企業のM&Aを主戦場にしてきた、日本M&Aセンターも今年4月に小規模事業者向けのM&Aマッチング専門子会社「アンドビズ」を設立した。アンドビズの大山敬義社長は「アメリカに視察ミッションを送り、4年前からビジネスを模索してきた。開始当初、ピクリとも動かなかったのが、この1年で登録会員数が急速に増えている。メディアで取り上げられることなども大きいが、事業承継を取り巻く空気の温まり方が尋常でない」と手応えを感じる。

ブームの背景には金融機関の融資基準が緩んでおり、おそらく個人や小規模事業主でも資金調達をしやすくなっていることがあるが、「事業承継ブーム」には危うさもある。「たとえば当社サイトには、風俗営業店はいっさい載せていない。プロであるわれわれが本人確認などをして、情報の品質を担保している。時代の動きが速すぎて、決算書が読めなかったり、手形取引や社会保険加入を知らないような素人が事業承継市場に参入し始めており、今後は買い手と売り手の教育や啓蒙も重要になってくる」(アンドビズの大山社長)。

トラブルや社会問題になれば、ブームもあっという間にしぼんでしまう。しかし、「団塊世代を中心に経営者の年齢層が固まっており、これから10年以内に経営者の半分以上が入れ替わる。敗戦直後と同じように、経営層がもう1回大きく変わるチャンス」(大山社長)。見方を変えれば、事業承継問題はチャンスにもなりうる。事業承継ブームが一過性で終わるのか否か、それが日本経済の未来を左右する分水嶺になりそうだ。

山田 徹也 東洋経済 記者

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やまだ てつや / Tetsuya Yamada

島根県出身。毎日新聞社長野支局を経て、東洋経済新報社入社。『金融ビジネス』『週刊東洋経済』各編集部などを経て、2019年1月から東洋経済オンライン編集部に所属。趣味はテニスとスキー、ミステリー、韓国映画、将棋。

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