この背景には、プロ側の「教育」の成果もあるだろう。高校、大学と野球漬けで、野球しか知らないままプロ入りした選手の中には、自己管理ができず不祥事を起こす選手もいた。コンプライアンス意識が高まる中、球団は若手選手の再教育に力を入れている。
プロ野球は、昔のように「上意下達」の軍隊式の組織ではなくなりつつある。あいさつなど社会常識を身に付けさせ、メディアへの対応も学ばせる。またプライベートでも生活習慣を改めさせ、自律できるように指導するようになった。
また球団だけでなく、プロ野球選手会も「セカンドキャリア」へ向けた教育に力を入れるようになっている。
プロ野球選手による野球賭博などスキャンダルも起こってこそいるが、総体的にはプロでの教育が、プロ野球選手上がりのイメージを変え「優秀な人材」という認識を生みつつあるとは言えるのではないか。
野球で流した汗や涙は無駄にならない
もちろん、トライアウトに臨む選手たちの脳裏に「商社」「生保」「損保」「警備保障」などの言葉は容易に入ってこないだろう。
彼らは小さいころから野球一筋にやってきた。
そのかいあってプロ野球選手になった。「戦力外通告」は、これまでの半生が瓦解するようなショックだ。ストライクが入らなくて顔をしかめ、指先で目をぬぐいながらマウンドを降りる投手にとって、「野球界で生き残る」ことがすべてではあろう。
しかし、野球だけが人生ではない。野球選手として重ねてきた努力が、別の世界で花開くとすれば、流した汗や涙も無駄にならないというものだ。
終身雇用・年功序列は崩れたとはいえ、依然として雇用の流動性が低く、とかく息苦しく堅苦しい日本社会で、プロ野球選手のセカンドキャリアに光明が見えたことは、筆者にとってもことのほかの朗報のように感じられた。
(文中一部敬称略)
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