トライアウトに参加するのは、こうした内々のオファーがない選手だ。中には、球団から声がかかっているが、一応トライアウトを受けるという選手もいる。だが、大部分は、わずかな可能性に懸けて、トライアウトに挑んでいる。
トライアウトには毎年50人前後が挑戦するが、NPB球団に移籍が決まるのは2~3人にすぎない。多くの選手にとっては、これがプロのユニフォームを着て野球を披露する最後の機会になる。
大物選手の参加で大盛況の2018年トライアウト
今季のNPB各球団は、実績ある大物選手に次々と戦力外を通告した。本来、そうした大物は、早々に移籍先が決まる。
だが今季は、首位打者・最多安打のタイトルを取った西岡剛(阪神)や、最優秀防御率1回、通算96勝の成瀬善久(ヤクルト)、横浜(現・DeNA)で3割を打った吉村裕基(ソフトバンク)などのスター選手もトライアウトに参加した。
これはNPB各球団が「若手育成」へと大きく舵を切ったことの表れだろう。
人気選手が出るということもあって、今年のトライアウトは満員札止めの盛況となった。今年の主催球団であるソフトバンクは、遠隔地からくるファンの席を確保するために3000席の半分の1500席を800円でネットで予約販売した。トライアウトで有料席が設けられたのはこれが初めてだ。当日までに完売した。
トライアウト人気が高まっているのは、TBS系列のドキュメンタリー番組「プロ野球戦力外通告 クビを宣告された男達」の影響も大きい。戦力外を通告された選手の苦悩、不安におののく家族、そして再起のドラマには、身につまされる視聴者も多く、スピンアウト番組も作られている。
今年のトライアウトでは客席内に家族席が設けられたが、あちこちでTBSの取材パスを首から下げたスタッフが、小型カメラで家族の表情を追いかけていた。
トライアウトそのものは、単調で地味な催しではある。投手組と野手組に分かれ、投手組は3人の打者を相手に投げる。打者は4~6人の投手と対戦する。時間短縮のため、ノーアウト、カウント1-1の設定で行われる。インターバルは短く、流れ作業のように、淡々とテストが行われる。
客席には応援団はいない。しかし観客は、好プレーが出ればどのチームの選手であっても惜しみなく大きな拍手を送る。トライアウトに来ているファンは、本当に野球が好きなのだと実感する。
地元ソフトバンクの選手が登場すれば、歓声はひときわ大きくなる。中でも城所龍磨には「まだやれる!」「元気出せよ」と胸が熱くなるような声援が飛んでいた。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら