メルケル首相を一気に追い詰めた逆風の正体 ドラマさながらのメルケル追い落とし劇
メルケル氏の党首退陣宣言により、12月に迫ったCDU党大会での党首選に向けてすでにアンネグレート・クランプ=カレンバウアー党幹事長(略称AKK)、イェンス・シュパーン保健相、フリードリッヒ・メルツ元院内総務の3人が正式に名乗りを上げている。
次期CDU党首はすなわち次期首相候補であり、だれが党首になるかによって、ドイツ政治の様相は違ってくる。
あと3年弱あるメルケル首相の残任期間が全うできるか、それとも連立の組み換えがあるのか、連邦議会選挙の前倒しがあるのかなど、さまざまな政治局面が生起しうるだろう。
すでにメルケル氏のレームダック化は始まっており、ドイツ政治はポスト・メルケルに向けて緊張感を伴った政局の様相を露呈しつつある。
すでに第4次メルケル政権の始まりからして不幸な船出であった。2017年9月24日の連邦議会選挙でCDU/CSUは辛くも勝利を収めた。当初、自由民主党(FDP)および緑の党との間での連立を目指したが、失敗。これを受けてSPDと交渉を行い、半年後の今年3月にようやく3度目の大連立である第4次メルケル政権が発足した経緯がある。退潮傾向にあるSPDも乗り気でない大連立であり、当初からメルケル首相が任期4年を全うできるか不安視されていた。
第4次メルケル政権発足からわずか7カ月であるが、以下の2つの誤算とバイエルン、ヘッセン両州議会選挙での敗北により、メルケル氏にとって2021年以降首相を継続する選択肢は絶無となった。
1つ目の誤算は、6月に姉妹政党CSUの前党首であるゼーホーファー内相との間で移民・難民の規制をめぐる確執が生じ、連立崩壊寸前まで行ったことである。これによりメルケル氏のリーダシップに黄信号が灯った。さらに、マーセン連邦憲法擁護庁長官が反移民グループやAfDを擁護する発言をしてその適格性が問題となった。メルケル氏は同長官の任を解き、新たに内務次官に任命したが、これは実態としては昇進であり、メルケル氏への批判が高まった(のちに撤回)。この件でメルケル氏は疲弊していた。
メルケル氏の関心事は「引き際の美しさ」
2つ目の誤算は、議会内のCDU/CSU議員団のまとめ役として、メルケル氏の後ろ盾になっていた重鎮のカウダー院内総務が、9月25日同ポストの再選を果たせなかったことだ。院内総務には、反メルケル派のブリンクハウス議員が就いた。これまで数々のライバルを排除し、「メルケル一強」状態だったが、メルケル神話が揺らぎ始めたことがはっきりした。
すでに求心力を失ったメルケル氏にとって最大の関心事は、いかに引き際をきれいにするかである。原発脱却、ユーロ危機の沈静化、移民・難民への人道的対応以外に目立った実績がなく、引き際のタイミング選びは重要である。党首辞任表明を行ったヘッセン州議会選挙後の記者会見で述べた「国家と党における職務を尊厳をもって行い、尊厳をもって終えることを希望し、取り組んできた」という言葉はそのことを如実に物語っている。
それにしても、なぜメルケル氏はここまで追い込まれたのか。
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