メルケル首相を一気に追い詰めた逆風の正体 ドラマさながらのメルケル追い落とし劇

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生々しい話としては、11月3日付独週刊誌『シュピーゲル』が「リターンマッチ」として報じている見方がある。ライバルの政治家2人によるメルケル追い落としの復讐劇である。記事によれば、政争に敗れメルケルに恨みを抱いていたフリードリヒ・メルツ氏(元院内総務)と、メルケル氏を党幹事長に抜擢したが、献金問題で党首を失脚し、その後はメルケル氏に仕える立場に変わったヴォルフガング・ショイブレ連邦議会議長(前財務相)の2人が積年の思いを晴らすために、今年の春ごろから共謀してメルケル追い落とし作戦を練っていたというのである。

ヘッセン州の選挙でCDUの得票率が27%以下となった場合に(実際にそうなったが)メルケル党首の責任を問い、メルツ氏を党首候補に据えようというものであるが、メルケルサイドにもその情報が漏れていたという。いわば宮廷革命であり、左傾化したメルケル路線を保守本流の姿に戻す復讐劇というわけである。

東独出身であるがゆえに強権を嫌い、リベラリストでもあるメルケル氏は、慎重に時間をかけ、争点を薄めていく予定調和を大事にしてきた。しかし、その政治手法では、こうした政変に対応できなくなったことを悟ったことであろう。党首として潔く身を引くことにより党の刷新を促すこともさることながら、残りの首相任期において乏しい政治的業績を増やすことに注力しようと考えたのではないかと推測される。

候補者3人の横顔

党・政分離によりメルケル首相は党首職を手放し、次期連邦議会選挙が行われる2021年9月まで首相にとどまる「秩序立った辞任」を望んでいるが、それが実現可能か否かはCDU党首に誰が就任するか、SPDとの大連立が継続するか否かにかかっている。2004年にゲアハルト・シュレーダー首相(SPD)が「党-政分離」により党首職を譲ったことがあるが、それはSPDのしがらみを離れて、ドイツの経済改革「アゲンダ・2010」の実現に注力する必要があったからであるが、結果は2005年の選挙で敗北している。

メルケル氏のケースは、首相退陣準備のための党・政分離であり、次期政権担当を目指さない点では異なっているが、政務に集中できるようにするためという点では本質的には異なっていない。

党首職を失った首相がこれから3年近く指導力を発揮できるかは疑問が多い。党首候補として名乗りを上げているのは、前述のように、メルツ氏(元院内総務)、クランプ=カレンバウアー氏(党幹事長)、シュパーン氏(保健相)の3人である。

メルツ氏は、メルケル氏によって政界からの下野を余儀なくされ、10年近く外資系企業の監査役会会長を務めている。反メルケルの正統保守政治家である。経済専門家として評価が高いが、敵も少なくない。やや左傾化したメルケル路線を本来の右派保守路線に転換することを標榜している。

クランプ=カレンバウアー氏はザールラント州首相をしていたが、メルケル氏によって今年2月に党の幹事長に抜擢された女性後継候補。中央での経験はあまりないが、手堅い実務と人気が取り柄だ。

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