"米中新冷戦"は「中国優勢」なのかもしれない 在北京20年のアメリカ人中国専門家に聞く

✎ 1〜 ✎ 233 ✎ 234 ✎ 235 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

津上:あまり心配症にはなりたくないけれども、アメリカがどんどんサプライチェーンに介入してくる様子が目に浮かびますね。技術がどう定義されるのか、どれくらいの期間に及ぶのか、われわれも注意していかなければなりません。

クローバー:最近では中国人の雇用を制限するという話まで出ている。すでに2017年に国防総省が出した報告書が3点を提言していた。すなわち①CFIUSの拡大、②輸出管理の拡大、③中国人採用と留学生の制限だ。①と②は見たとおりだが、3点目も実行されるかもしれない。

米中関係は、もはや「デカップリング」できない?

津上:しかしAIの分野などでは、すでに米中の人材やファンドマネーが融合しているので、もはや関係を切るに切れなくなっているのではないですか。

クローバー:それは面白い質問だ。ライトハイザーは最近公式な場でも、米中の経済を「デカップル」したい、アメリカ企業の対中投資を減らしたいと言及するようになっている。AIや量子コンピュータのような最先端分野では特にそうだろう。だが容易なことではない。

実は2週間前にシリコンバレーに行ったのだが、そこで数社で尋ねてみた。「重要なサプライチェーンの一部を中国からベトナムかどこかへ移すことは可能ですか?」、と。そうしたら「それは無理だ。労働力、技術、ロジスティクス、インフラ、どれをとっても代替できない」、と言う。それ以上に、すでに中国には製造基盤があり、多くの顧客がいる。わざわざ顧客から離れたところへ製造拠点を移すなんてばかげていると。

AIは特に興味深い例だ。ウォルマートは中国市場でテンセントと緊密に連携している。お客が店でどんなものを買っているかをモニターして、お客がどんなものを欲しがるかをAIで探り当てる。米中の企業がそんな協力をしているところへ、どうやって政府が割り込むのだろう。しかもこうした変化はとても早いのだ。

ライトハイザーは、何とか米中の経済を切り離したいらしい。関税をかけても工場はベトナムやほかの国に移転するだけだろうが、それでも構わないらしい。しかし、そんな切り離し(デカップル)が本当に可能なのかどうか、私にはわからない。

――クローバー氏との会話は、その後も場所を天ぷら屋さんに移して深更に及んだ。「米中関係をウォッチする仕事は、今じゃ北京よりもワシントンのほうがよっぽど難しいよ」と笑っていたことが印象に残っている。

津上氏は後日、「アメリカは『当面中国にはタフに当たれ』という点では一致しているものの、それを一歩越えるとコンセンサスがないように見える」と感想を述べていた。その点、中国のほうが、一度腹をくくってしまえば後はブレがないのかもしれない。逆にアメリカ側には11月6日の中間選挙もあれば、今後、さらなる閣僚の交代もありそうだ。株価もどんどん怪しくなってきている。米中新冷戦は、まだまだ前哨戦の段階と見ておかなければならないだろう。

今回、競馬予想はお休みします。ご了承ください。

かんべえ(吉崎 達彦) 双日総合研究所チーフエコノミスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

Kanbee

吉崎達彦/1960年富山県生まれ。双日総合研究所チーフエコノミスト。かんべえの名前で親しまれるエコノミストで、米国などを中心とする国際問題研究家でもある。一橋大学卒業後、日商岩井入社。米国ブルッキングス研究所客員研究員や、経済同友会代表幹事秘書・調査役などを経て2004年から現職。日銀第28代総裁の速水優氏の懐刀だったことは知る人ぞ知る事実。エコノミストとして活躍するかたわら、テレビ、ラジオのコメンテーターとしてわかりやすい解説には定評がある。また同氏のブログ「溜池通信」は連載500回を超え、米国や国際政治ウォッチャー、株式ストラテジストなども注目する人気サイト。著書に『溜池通信 いかにもこれが経済』(日本経済新聞出版社)、『アメリカの論理』(新潮新書)など多数。競馬での馬券戦略は、大枚をはたかず、本命から中穴を狙うのが基本。的中率はなかなかのもの。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
マーケットの人気記事