"米中新冷戦"は「中国優勢」なのかもしれない

在北京20年のアメリカ人中国専門家に聞く

クローバー:うーん、トランプさんは自分がただ1人のネゴシエーターでいたい人だからね。誰かを中国担当の窓口に指名したりはしないだろう。

ポールソンがいい仕事ができたのは、G・W・ブッシュ大統領から万全の委任を受けていたからだ。今から思えば、ブッシュ政権の対中政策は筋が通っていたし、統制も取れていた。だがそういうのは、トランプの手法ではないということだ。今の中国側は不満を募らせていると思う。向こうでしょっちゅう聞くのは、アメリカ側の誰と話せばいいかわからない、アメリカ側が何を望んでいるかもわからない、といったことだ。

今年5月には、劉鶴副首相が市場アクセスなどの大型譲歩を持ってワシントンに飛び、ムニューシンと話をまとめようとした。そしたらトランプ大統領が、それはダメだ、制裁関税だと言う。9月にもう一度話を進めようとしたら、今度は2000億ドルの追加関税だと言われた。財務省を頼って2度もメンツをつぶされた。彼らはアメリカ側に信頼に足るパートナーを見いだせていない。こうなったら、もうすべてを首脳会談に託すしかない。だからこそ、G20での習近平とトランプ会談は重要になるわけだ。

アメリカに不満だらけの中国は覚悟を決めた

中国側はもう覚悟を決めていると思う。中国封じ込め、結構。この米中冷戦は長引くだろう。それでもここは関税引き上げを遅らせて、時間稼ぎができればそれで十分だ。貿易戦争は米中双方に被害をもたらすだろう。中国は専制体制だから、経済的な打撃も我慢することができるが、アメリカは被害が出れば国民が反対の声を上げ始めるから、時間は中国の味方だとね。

津上:トランプ大統領が習近平主席との首脳会談で、停戦程度にせよ何か「ディール」しようとしたら、ホワイトハウス内のタカ派が止めに入りませんか?

クローバー:トランプがやると決めれば誰も止められない。ただ、仮にトランプ大統領が関税引き上げをやめたとしても、対中タカ派にはほかにもいろいろな手段が残されている。

ご存じのとおり、8月には2つの法案がアメリカ議会を通過している。ひとつはCFIUS(対米外国投資委員会)の役割を変えたことだ。以前のCFIUSは年間100件程度の訴えを受けて、50~60件の見直しを行って、問題化するのは2~3件が関の山だった。ところが新生CFIUSは、外国企業が決定に参加しているあらゆる取引に口出しできる。しかも、単なる国家安全保障上の問題にとどまらず、「死活的に重要な成長的、もしくは基本的技術」(Critical emerging or foundational technologies)に関連するものも含むという。おいおい、それってどういうことだ、と聞くと、その定義は存在しない。後で商務省が専門家委員会を作ってリストを決めるらしい。リストに載った分野は、いかなる投資も精査を受けることになる。

同じことが起きているのが輸出管理法だ。輸出管理の分野を拡大して、死活的に重要な成長的、基本的技術を含めるという。アメリカ以外の国、特に日本から見れば輸出管理がどうなるかは心配だろう。日本企業が中国に売っている製品の中に、アメリカ製の部品やソフトウエアが埋め込まれていた場合はどうなるのか。

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