ラクスルが目指す「シェアリング基盤」の可能性 仕組みを変えると効率化が進む
松本:そうですね。オペレーションに関するベストプラクティスを自分たちで作り上げ、そのナレッジを他の印刷会社にも提供していくのが狙いです。
10%にすぎなかった売上総利益率を劇的に改善させる
小林:よく「旧産業×IT」といった取り組みが取り沙汰されていますけど、中途半端な結果に終わっているケースが見受けられます。けれど、御社の場合は単にITを採り入れるだけに終わらせず、旧産業のほうのテコ入れもしっかりと進めていて、R&Dの話はそのことを象徴するものですね。
松本:おっしゃるとおりで、「リアル×IT」などといった話においてITの果たす役割は、どうしても需給のマッチングとプラットフォームが中心になってくるものです。しかし、実はそれだけにとどまっていると、日本はひたすら良いものを作ろうとする国であるだけに、業種を問わず価格競争が激化しがちです。マッチングするだけでも、既存のサービスに利便性の点で大きな差別化を図れるものの、コストという点では結構厳しいわけです。そうなってくると、バリューチェーンに入り込んでとことん改善していかなければ、顧客に対する価値を高めきることが適いません。
朝倉:関連した話ですが、当然ながらプラットフォームという事業はエンドユーザーに対してだけにとどまらず、供給側の人たちに対しても付加価値を提供することが重要です。その点、ラクスルのビジネスでは原価が継続的に低減しています。ボリュームを効かせたということもさることながら、やはり提携業者と親密な関係を構築して、ともに生産性の改善に取り組んできたことが奏功しているわけです。まさに相乗効果でお互いにアイディアが膨らんでいき、分かち合うパイも大きくなっていくというWinWinの関係が提携業者との間で築かれています。
小林:IT企業の出身者や現場経験のない学生が「リアル×IT」のビジネスを起業すると、どうしてもIT寄りのスタンスになってしまう傾向があるけど、ラクスルの場合はそのバランスを上手く保っています。これからスタートアップを考えている人にも、当初から現場力に対する意識を高めることが重要だという話は大きなヒントとなりそうですね。
朝倉:松本は前職の世界的大手コンサルティング会社・A.T. カーニーでもコスト削減のような地道な作業に取り組んでいました。ラクスル自体はITという切り口からビジネスがスタートしているけど、松本自身はまったくIT側の人間ではないわけですよ。むしろ、オペレーション側の考えがベースにあり、そこにITを採り入れようという発想ですね。その点が他のIT系のスタートアップとは一線を画しているわけだけど、わかりやすいITスタートアップとは異なる取り組みだっただけに、創業当初は「松本は印刷屋がやりたいの?」と誤解されている様子も見てきました。
松本:まずは拡大戦略を先行せざるをえない事情もあって、あの頃の当社の売上高総利益率(粗利)は10%にすぎませんでした。実際にマーケットで競争力のある価格で販売してみると、事業をスケールする際に想定していた利益率には到底及ばなかったのです。製造サイドをどうにか改善しない限り、このビジネスは成り立たないうえ、具体的にどうすればいいのかというナレッジを誰も持ち合わせていませんでした。だから、地道に取り組むしか術がなかったわけです。確か、2014年の末頃まではずっとそのことに向き合ってきましたね。