ラクスルが目指す「シェアリング基盤」の可能性 仕組みを変えると効率化が進む
松本:粗利を強く意識するようになったのは1年程前からで、日本の会計制度がIT企業に合っていないと強烈に感じるようになったのがキッカケでした。福沢諭吉が国内に持ち込んだ会計の仕組みは、やはり製造業を主軸に据えたものです。手元の現金や借入金を用いて機械を購入し、それをB/S(バランスシート)に計上して減価償却しながら、償却期間以上のキャッシュフローを7〜15年かけて出していきます。これに対し、われわれのキャッシュフローはユーザー基盤によって成り立っています。そして、より多くのユーザーを獲得するための選択肢は2つです。それは、マーケティングによって集客力を高めることと、使いやすいシステムを作って満足度を高めてリピーターを増やすことです。
小林:確かに、御社のキャッシュフローは製造業のそれとは明らかに異なっていますね。
松本:当社がユーザー基盤を固めるためにマーケティングとシステム開発に費やすコストは、現行の会計制度ですとB/S上に計上できません。その点に関して、私は強烈な違和感を抱いたわけです。なぜなら、マーケティングコストを絞ったり、人件費を減らしたりすれば、いくらでも利益を出せるからです。LTV(顧客が生涯にわたってもたらしてくれるトータルの価値)の高い顧客の獲得が提言されている時代であるにもかかわらず、今の会計制度はそれにマッチしていません。少なくともわれわれの事業においては、営業利益の推移を通じてコミュニケーションを図っていくことがまったくフィットしていないと思いました。
小林:おそらく、それは他の多くのIT企業においても言えることでしょうね。
粗利とは、われわれの努力で改善していくもの
松本:おっしゃるとおりで、ちょうど1年程前に監査法人と会談している際にそのような話に流れて、「じゃあ、われわれの企業価値を本質的に表している数値とは何だろう?」と突き詰めていった結果、「それは粗利だ!」という結論に達しました。粗利とは、われわれの努力で改善していくものです。中長期的に見れば、販管費は最終的に粗利に対してフィードバックされていきます。だから、粗利の改善こそ、われわれの企業価値が成長している証しであるというスタンスを前面に打ち出しています。そうすることで、積極的なマーケティング展開やシステム開発を進める際にも、経営側として投資家などと交渉しやすくなります。
朝倉:こうした議論ができるのは、永見世央取締役CFOの存在も大きいと思います。ITのスタートアップでは希少と言える彼のような金融のプロフェッショナルが仲間に入って、侃々諤々議論できるチーム作りができたことが非常に大きな収穫だったと思います。
小林:粗利の改善こそ、われわれの企業価値が成長している証しであるというスタンスで実際に投資家と接してみて、どのような手応えを感じましたか?